始りがあれば終わりが来る。終わりがあるからこそ始まりがある。
 人も、物事も、それこそ刻でさえも。例え世界一の権力者であろうとも歪める事はできず、例え神であろうとも無くす事はできない、万物共通の理。

「――で?」
「で?」
「だから、何が言いたいのですかね、ティキさんは」
「そうだな、とりあえず今はこのクッションを退けて欲しいかな」

 そろそろ息が出来ねぇんだけど。とくぐもった声を出すティキを前――正確には上に、深い深いため息を落すイヴ。勿論、迫り来る顔を押しのけるべく、クッションを押し付けたまま。

「私がどかすんじゃなくて、ティキが退けばいいと想うんだけど」
「あそっか」
「ヘタレ……」
「や、ヘタレ関係なくね? 寧ろ何でそこでヘタレ?」
「そんな事より、突然入って来たかと思えば覆い被さって何? というかホントにティキなの、ジャスデビの悪戯とかじゃないよね」

 あの二人なら、イメージしただけでそっくりの千年公を作りだせる。ティキなんて思考回路が単純な分量産だって出来てしまいそうだ。――なんて、想像しただけで身震いがする。

「オイオイ、このさわり心地は本物に決まってんだろ。……あ、でもそれいいかもな。今度双子に言ってイヴのコピーを」
「一生口聞かないのと一生変態呼ばわりするのどっちがいい?」
「俺はずっと本物のイヴ一筋だから今まで通りでお願い」
「じゃあ話が纏まった所で今日はここまでと言う事で。私明日早いし」

 千年公とお節作るんだ。と告げるイヴは何処となく、いや明らかに楽し気である。それがお節を作る事に対してなのか、それとも千年公とに対してなのかは定かではない。が、どちらにしてもティキの機嫌を損ねるには十分だろう。

「あのさ。さっきも言ったけど、今日は一年に一度の時間……というか年の終わりの日な訳よ」
「うん、だから?」
「だからって、お前な。もっと他に思う事とかあんだろ」

 眉間を顰めながら告げるティキを前に、イヴは暫し考えを巡らせる。何だか普段と逆だなぁ、なんて事こそ思いつくが、肝心のティキの問いに該当する言葉は一向に閃かない。
 そんな訳で、結局数秒も立たず内に「べつに」と首を左右に振る事となったのだった。

「いやいやいや、最後の日なのに何も思わねぇの!?」
「うん。別に明日が無いわけじゃないし」
「そりゃ明日はあるけど、それは新しい年の第一日ってあって今年じゃないんだぞ」
「は?」
「だから、明日は明日であって今日とは違うっていうか」
「そりゃそうでしょ。ていうか、ソレ言ったら毎日じゃん」
「いやだから、それは日にちだけであって年は同じって言うか……あれ?」
「……あのさ、ティキは誰からその話聞いたの?」

 どうやらティキ自身、話しているうちに言いたい事を見失ってしまったらしい。これ以上彼の思考を聞いた所で理解は不能と悟ったのか、元凶、もといティキに教えただろう人物の名を問い掛ける。――尤も、凡その検討は付いているが。

「誰って、ロードだけど」
「デスヨネー」

 頭を抱え、今日何度目かの嘆息が口を伝う。
 悪戯大好き過激少女(クラッシュロリィタ)。やはり今回の騒ぎも彼女の"悪戯"だったらしい。イヴの事を溺愛している為直接(過度な)悪戯を仕掛ける事はないのだが、時々こうやってイヴの恋人であるティキを嗾(けしか)ける事がある。それに毎回ひっかかるティキもティキだが。

「で、ロードはなんて?」
「一年の終わりには悔いを残したらいけないってさ」
「うーん、まぁそれは強ち間違いではないかもしれないけど。それと押し倒された事となんの関係が?」
「だってまだあんな事やこんなプレイし」

  ―ごすっ

 そんな効果音と共に、ティキの顔へと今日二度目のクッションがめり込んだのだった。
 それから数分と立たずして簀巻き状の布団が廊下へと放り放り出され、一人寂しく廊下で(しかも簀巻き状態で)新年を迎えた男の姿があったとかなかったとか。


Last time
「イヴーもう年変わっただろー。去年の事は水に流して部屋に入れてくれない、寒くて死にそう」
「何もしないって誓える?」
「……抱きしめるのは?」
「……それ以上はNGだからね。姫初めーとか言ったら今度は屋敷の外に出すから」
「ん? 姫初めって何?」
「(う、しまった)え、えっと……とりあず、今日は遅いからもう寝るって事!」
「へいへい(明日ロードに聞いてみるか)」


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -