「スー……」
ここで眠ってる奴、イヴは例外だったりする。いや、例外って言うのは少し違うか。体がイノセンスで無い限り、俺の能力で通過できないものはない。勿論イヴだって。問題なのは、逆ができない――つまり、触れられないって事。
別にイヴが人間じゃないとか、実体が無いと言う訳ではない。ちゃんとした人間、てか俺達と同じノアだし、寝"息"だってしてる。
だから触れようと思えば触れられる筈……だってのに。
「…………だぁああっ!」
あと少しと言う所で手を引っ込めては、イヴを起こさないように小さく声を荒げる。手を伸ばしたついでに何故か息を止めてしまった事もあり、息を切らせながらリビングの床へと両手と両膝を付いた。
「……何やってんだろ、俺」
他の女なら……それこそロードやルルだって何の躊躇いもなく触れる。なのに、イヴだけはどうしてもできない。いや、触りたいのに触れないんだ。手を伸ばすだけで今みたいに息が詰まって、まるで体が自分のものではないみたいに動かなくなる。
惚れた弱み。それが最大にして最悪の理由。
――マジで情けねぇ。
体の底から湧きあがるような大きなため息を落とし、床から立ち上がる。ソファで眠るイヴ。綺麗な白銀の髪、陶器のように白い肌。外見こそ人形のようだけど、ロードが言うには人形の何倍も柔らかくて暖かくて抱き心地が良いらしい。だからよくイヴに抱きついてるらしいけど、あのロードの事だし、きっと俺への宛て付けに決まってる。
――けど、眠てる間なら……!
目を見るだけでうるせぇ程心臓が鳴り出すけど、瞑っている今なら幾らか大丈夫、な筈。
少しだけ、それこそ一瞬ならイヴだって気が付かない、筈。
大丈夫、何も如何わしい事をしようって訳じゃない。どんだけ柔らかいのか確かめるだけ。ただ、ちょんって触るだけだ。五秒、いや一秒だって掛からない。……筈。
そう何度も自分に言い聞かせつつ、ゆっくりと腕と指を伸ばしていく。
イヴまで後三十センチ……十五センチ……十センチ……五センチ…………一セ
「う、ん……」
―バタバタバタッ!!
……イヴが寝返りを打ったのと同時に、弾かれるようにして。また勢いよく壁をすり抜けて部屋から飛び出していた。
あと1センチ
意気地なし。俺の意気地なし……!!