お日様サンサンのとある日曜日。更にとある家のとある廊下から、ひょこりと女性事イヴの顔が覗いた。柱に身を隠し、また気配を殺しながら前方の部屋を見つめている。
 じっと凝視する事数秒。変化は訪れない。今なら大丈夫だろう。ソロリソロリと足を動かしていく。
 抜き足、差し足、忍び足。息を殺してそっと忍び寄る。何だかイケナイ事(泥棒)をしている気分だ。勿論そんな事はないのだけれど。
 息を殺しながら進み、やがてベッドの真横で立ち止まる。
 そして――。

「ティー……きぐぇっ!?」

 瞳を怪しく光らせ、勢いよくベッドへダイブ。直後呻き声部屋へと轟いた。
 ただしイヴ本人から、だが。

「き、緊急回避とはやりますな、旦那……」
「フッ、伊達に何十回もくらってないぜ」

 目標物に避けられた事で顔から着地、もといベッドに沈みながら感嘆するイヴ。中々シュールな光景だ。
 そんな彼女の隣で、目標物事ティキは一人勝ち誇った笑みを浮かべていた。被害数二桁は無駄ではなかった、と言わんばかりに。

「で、今日は何?」

 ベッドに座ったまま片膝を立て、更に前髪を掻き揚げながら妻である女性へと尋ねる。その表情は先程までと違い、何処か警戒しているようだ。
 しかし、それも無理もないだろう。何せイヴがこんな起こし方をする時は、大体何処かに行こう、或いは何かしよう、と言う時なのである。前々回は海に連れて行けと言われたし、その前はなんと「カラオケ大会しよう!」と突然言い出したのだ。いや、友人やご近所さんを召集した後だったから"突然"ではないのかもしれないが。……全く変な所で策略家だ。
 そんな事を思うティキを知ってか知らずか、イヴはニッと笑みを浮かべ。

「運動しにいこ!」

 一体何時抱えたのか。はたまた何時購入したのか。彼女の腕には一つのバスケットボールが抱えられていた。





「で、結局こうなるのね……」

 部屋の中から一転し、青空の下のバスケットコート。公園脇のストリートコートではあるものの、幸い他に使用者も観客の姿もない。まさに二人だけの貸切状態である。尤もこの場合幸いと言うのかは疑問だが。

「よっしゃ、ティキカモン!」
「はぁ、朝から元気だねぇ〜」
「おうよ! 最近運動不足な上にストレス溜まってたからね!」

 いっぱい暴れるぞー! なんて大声と共にイヴの両腕が上下する。ストレス解消と言うよりかは、"遊び"に対してはしゃぐ子供のようだ。実際外見も幼いしな、なんて事は流石に口にできないが。

「まぁその気持ちも分らなくはないけどさ。つか、お前でき」
「そいやっ!」

 んの? そうティキが尋ねるより早く、乾いた音が響く。同時に手の中にあったボールが消え、何時の間にか目の前には満足気なイヴの姿が。

「フッフッフ。こうみえて球技系は得意なのだよ。早速一点頂き!」
「あ、きたね」

 ボールをバウンドさせながらドリブルし、バスケットリング目掛けて突っ走るイヴ。小柄な体系もあり、無駄にすばしっこい……もとい身軽である。とりあえず追いかけるティキだが、ボールを奪取する事はできず。

「そりゃ!」

 リングまで近づくなり、見事なジャンプシュートを決めたのだった。

「一点げっとー! どうよ、ティキ!」
「はいはい、流石小動物。無駄にすばしっこいわ」
「小動物は余計。無駄に毎晩逃げ回ってませんよ!」
「ホント無駄に逃げ回るよな」

 主にベッドの上的な意味で。なんて呟くティキだが、聞こえなかったのか、あえて無視したのか、イヴからの返答はない。
 再び落ちたボールを手にしては、一旦リングから距離を保ってから再度ドリブルしている。

「そうだ。折角だし賭けしない? 勝った方が負けた方の言う事聞くって事で」

 勝利の手応えを感じているのか、余裕綽々で告げるイヴ。しかし、その言葉がティキの闘争心に火をつけたのは言うまでも無い。
 ニッと口角を吊り上げては

「へぇ、んじゃ」

 イヴの手中にあったボールを地面へと叩き付ける。突然だった事もあり唖然とするイヴを他所に、ティキは一気にリングへと駆け出していた。一度も止まる事なく真下へと突進し

 ――ガダンッ!!

 先程以上に大きな音を立て、ボールをリングに叩き込んだのだった。俗にうダンクシュートと言う奴である。

「俺の勝ちだな」

 地面で弾むボールを掴み、"ニンマリ"と笑ってみせる。それこそ先程のイヴと同じように。

「……ダンクとか卑怯だ」
「ん? イヴ、顔が赤いぜ」
「なんでもない!」

 薄っすらと紅潮した頬を一瞬両手で覆ったイヴだが、直ぐにティキからボールを奪取する。そしてそのまま再びドリブル……かとかと思い気や、リングの下に立っては、ティキに背中を向けたまま口を開いた。

「私もダンクやってみたい」
「あ? ……ああ、はいはい」

 言葉の意味が理解できず一瞬首を捻るティキ。それでも問い返す前に理解したのか、「しょうがねぇな」とイヴの身体を抱き上る。小柄故にイヴの身体は軽く、一人では届かないリングにも軽々触れる距離まで近づく事ができた。

「ダーンク」

 ティキに腰を抱えられたまま、手中のボールをリングへと直接入れる。先程のティキのような迫力は出なかったが、それでもイヴ本人は十分だったのだろう。一度地面に下ろされるも、今度はイヴ自身からティキへと抱きついた。

「満足ですか、お姫様」
「うむ、これで一点差で私の勝ちとなったから満足」
「おいおい、今のはノーカンだろ」
「一点は一点です」
「ずっる!」

 先程と同じように、でも今度は向かい合うように抱き上げてはクスクスと笑い合う二人。周囲には今だ誰も居らず、抱き上げられているが為に目線は同じ高さ。更に互いの顔の距離も近いとなれば、自然と顔が近づいていくのも当然の事だろう。やがて二人の顔が触れ合った事で、賑やかだったコートに暫しの静寂が訪れたのだった。
 尤も――。

  ―ゴンッ

「いでっ!」
「わっ!?」
「こんな公衆の面前でいちゃつかないで下さい、バカップルめ」
「あーあ、みてらんないさね」
「ふん」
「邪魔してごめんなさい」
「あ。アレン、皆」
「げっ」

 その静寂も数分として持たず、再び。それも先程以上の喧騒が訪れる事となったとか。


デート日和
「空気読めよ、少年」
「あはは。空気読んだからこのタイミングなんですよ」
「はは、このガキ」

 
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