時刻は深夜過ぎ。ノアと言えども普通の人間と生活環境変わらない。ともなれば、当然屋敷の住人は全員夢の中。……の筈。
まぁ、元々俺達の他には双子しかいないんだけどさ。ロードとシェリルは自分の家に居るし、ルルと千年公は仕事中。甘党は……しらね。
――つーか、千年公って人間なのか?
なんて事をぼけっと考えつつ、隣にいるイヴの髪を撫でる。緩い癖こそあるけど、サラサラで触り心地の良い髪。くるくると指に巻きつければ、指を離した後でもふわりとその形を保つ。それが面白くて、また自分の形を残し、染まる事が酷く嬉しい。
――何でコイツの髪って面白いんだろ。
なんて本人に言ったら怒られそうだけど、幸い今はぐっすり眠ってる。ちょっと無理させちまったかなー、なんて思うけど、勿論思うだけ。そりゃ自分を抑えようと思った時もあったけど、そんなん無駄だって何度思い知らされたか。
――他の女なら抑えられるのに、何でだ?
そう自問してみるけど、答えは未だに見つからない。
全く、分からない事だらけだ。
「んー……ティ、キ……」
くるくると髪を指に巻きつけていると、隣で眠っているイヴから小さな声が聞こえてきた。起こしちまったかな。……や、髪を触ってただけで起きるような奴じゃないか。それでも「どうした?」と口を開く。
「……だい、すき……」
――が、俺が言うより先にイヴの声が聞こえて、つい声がでなくなってしまった。
これは寝言なんだろうか。それとも実は起きてて俺を驚かせようと……は、ないか。なんか「むふふ」って笑ってるし、してやったりな顔してるし。一体どんな夢見てるんだか。
「まぁいいや。俺も寝よ」
なんか考えてるのもバカらしくなってきたし。と誰に言うでもなく呟いては、イヴのこめかみへと軽くキスを落とし、そっと目を瞑る。
そんな時不意に、というか唐突に先程の答えが分かったような気がした。
――何でコイツの髪が面白いのか。
多分、それはコイツがイヴだから。
――何で他の女なら抑えられるのに、コイツでは無理なのか。
多分、俺がイヴに心底惚れてるから。
――千年公は人間なのか。
まぁこれはどうでもいいんだけど、一応人間らしい姿してるから人間って事で。
「うん、すっきりした」
瞳を閉じたまま、やっぱり誰に言うでもなく小さく呟く。
その言葉を最後に、俺の意識もまた夢の中へと沈んでいくのが分かった。
――翌日。
「……あれ、昨日何考えてたんだっけ?」
「へ?」
言葉に出来ない幸福論
やっぱり、分からない事だらけだ