そう苦笑交じりにティキが外出してから、早数時間。千年公の使いでチベットに行ったのだ。なんでも山奥のブローカーの元らしいけれど、ロードの扉を持ってすればどんな場所でも一瞬だ。
――が。だというのに、あの放蕩息子、もとい放浪癖持ちのヘタレが帰ってくる気配はない。
確か、「まさか怪我でもしたんじゃ」と心配になったのが数時間前。
或いは、「それこそ放蕩三昧でもしているのでは!」と、一人で怒ったのが数十分。
でも、「チベット仏教の中心のような場所でそれはないか」と安堵したのが数分前の事である。……我ながら、何という百面相。しかも誰も居ないリビングで一人きりという、なんとも寂しい場景だ。
「これもそれも、ティキが悪いんだ」
抱えているクッションに顔を埋め、くぐもった声を木霊させる。
いっそ私から会いに、というか迎えにいってしまおうか。――でもこんな時間に外出したものなら、間違いなく千年公から落雷を落とされてしまう。うーん、どうしよう。
「せめて、電話の一本ぐらいかけてくれてもいいのに」
そしたら無事だって分るし、どこかのおねーさんといちゃついてる訳でもないって安心もできる。この飛び出したくなる衝動だって抑える事ができるだろうし、今なら、素直に告げられる事もできるかもしれないのに。
「……早く帰ってこい、バカティキ」
その何度目かの言葉は、やっぱり、受け止める人を見つける事ができずに消えていった。
今あなたに伝えたい
「――何してんのぉ、ティッキー」
「シー! イヴに気づかれんだろ」
「はぁ?」
「この部屋ん中で俺が帰ってくんの待ってんだよ。時々俺の名前呟いてたりしてさ。もう可愛すぎて死にそう」
「ならボクが殺してあげるよぉ。この扉開けば、可愛い可愛いイヴの手で死ねるよぉ」
「だああっ待てロードッ。飴やるから!」
「一ヶ月ぶーん」
「一週間分でゆるし」
「イヴー」
「三週間でどうだ!」
「チッ、まぁいいけどぉ」
「いいなら舌打ちすんなよ」
「ちゃんと三週間分用意しとけよぉ〜。ボクは退避しとくから」
「あ? 退避? ――え、あら? 扉が開いて…………」