そんな"がらんどう"に近い空間の一角に、二人の少年少女の姿があった。
「何したらいいと思う?」
「首にリボンでも巻けばいいんじゃないですか?」
「アレンの?」
「考えるだけでサブ疣が立つんで冗談でも止めてください」
「うーん。リナリーに頼むにしても任務で居ないしなぁ」
広い空間であるにも関わらず、身を寄せ合いヒソヒソと内緒話。端から見れば微笑ましい光景なのだが、当人達の眉根は、先程から顰められたまま。
「イヴ自身っていう選択肢はないんですか」
「そんな自殺行為はしたくない」
「本人が聞いたら地の底まで落ち込みそうですね」
「いっそ落ち込ませてみる? 祝うより印象に残りそうだし」
「いいですけど、僕の時は全力で祝ってくださいね」
「意外に薄情なのですね、紳士さんは」
やはり紳士とは自称か……。なんて呆れた顔を浮かべるイヴだが、発案者の彼女とて似たようなものだ。と隣のアレンが思ったのは言うまでも無い。結局似た物同士なのだ。
そうと決まればと、今度は別の話をし始めた――そんな時。
「お。二人も飯さー?」
「ん」
「あ」
静かな食堂へと明るい青年の声が響き渡る。遠目からでも分かるオレンジに近い赤髪と隻眼。ブックマン後継者であり、親友とも言える青年、ラビだ。
「やぁっとジジイに出された本読み終わったんよ。もうへとへとさ〜」
「そ、そうなんだーお疲れさまー。……んじゃ、私た、モグふぁッ!?」
「僕たちも丁度これから昼食なんです。ラビも一緒にどうです?」
「もっち。ちょっと頼んでくるさね」
そそくさと立ち去ろうとしたイヴの口を塞いでは、すかさずフォローを入れるアレン。自棄に迅速で手馴れた仕草だ。普通、こんな行動をとれば直ぐに疑われる。……のだが、ラビは自身が言っていた通り、徹夜明けの"仕事"で相当疲労しているらしい。
気にする様子もなければ、ヘラリと破顔してジェリーの元へと歩いていった。
「ぷはっ。ちょっとアレン。ラビが居たら、ラビの誕生日会の打ち合わせできないじゃん」
「馬鹿ですねイヴは。打ち合わせは後でもできますし、余所余所しくなったら逆に疑われるじゃないですか。今はラビから『嫌いなもの』を聞き出したほうが得策です」
――落ち込ませるんでしょ?
そう尋ねるアレンは薄っすらと笑っており、まさに彼の師に瓜二つだったという。
「アレン、恐ろしい子……!」
「発案者ほどではないですけどね」
恐ろしいと告げつつも椅子に座り直すイヴと、小さく喉で笑うアレン。
「お待たせっさ〜」
そして、獲物であるラビ。
よもや親友が恐ろしい計画を立てているとも露知らず、兎は自ら罠の中へと入っていったのだった。
君に捧げる演奏会
――数日後ラビは、一生消えないトラウマ……もとい、記憶に残る誕生日会を経験したとか