一年に一度きりの逢瀬。
二人はそれで幸せなのだろうか。
それとも――。





「――!」

雨が止んだ。そう確認したのと同時に、私は教団の個室を飛び出していた。
途中何人もと出会い、色んな人の声が聞こえて来る。
私の名を呼ぶ声。何処に行くのかと尋ねる声。理由を知っていて見送る声。嬉しそうだねと笑う声。時間までには帰って来るようにと告げる声。
でも、その中に私が求める声は無くて、私の足が止まる事もなかった。

無機質な廊下は土へと変わり、更に広がる自然が淡い光を放つ町中へと変貌していく。由一変わらなかったのは、頭上高くで煌く夜空。まるで天空でも再会している二人を祝福しているかのように、いつもよりも煌々と光り輝いているようだった。

――なんて、ちょっと乙女チック過ぎるかな。

そんな発想を持った自分と、またそんな発想をしてしまう程に浮かれている自分に対して微苦笑を浮かべる。と、不意に軽い衝撃と衝突音が聞こえてきた。

「おっと」
「あ、ごめんなさいっ」

目の前に広がるのは、闇夜の町――ではなく、夜空よりも黒い漆黒のコート。更に頭上から聞こえてきた声に、人とぶつかってしまったのだと悟る。謝罪と共に反射的に離れようとする、けれど。

「前を見て走らないと危ないですよ、お嬢さん。でないと、私みたいな人に捕まってしまいますから」

離れるよりも早く背中へと腕が回り、強くも優しく抱きしめられる。暖かい体温と共に包むのは、私が好きな香り。頭上から聞こえてくるのは、私が求めていた大好きな声。

「ティキになら捕まってもいいよ」
「嬉しい事言ってくれるじゃん」

自然と顔が笑顔になり、私もまた彼の背中へ腕を回す。まるでしがみ付くように抱きつけば、その行動になのか、それとも言葉に対してなのか、クスリと笑みが振って来た。

「前も見ずに走る程俺に会いたかった?」
「ティキだって、雨の中でも待つ程私に会いたかったんでしょ」
「あら、ばれてた」
「コートちょっと湿ってるし、雨止んでそんなに時間たってないから」

"雨が止まなかったらまた今度"という約束だったのだけれど、それでも彼は待っていたのだろう。雨が止むのを。私が来る事を。
その気持ちが酷く嬉しくて、その想いが至極愛しい。

「俺は彦星と違って、雨や水くらいで諦める程物分りよくないんでね」
「彦星よりも背高いしね。私だって、織姫みたいに従順じゃないし、大人しくもないから」
「足も断然速いしな」

クスクスと笑いながら漆黒の胸へと顔を埋めれば、同じように私の背中へと回されている手に力が入っていくのが分かる。まるで闇夜に包まれているかのようだった。暖かくて心地よい、漆黒の闇。

「それに、一年に一回だけなんて全然足りねぇもん」
「うん、全然足りない」
「毎日会って、毎日触れて、毎日キスしてたい」
「私もずっとティキの傍にいたい」
「なら、帰って来いよ」

背中に回されていた片腕がそっと動いたかと思えば、優しく頭を撫でられる。ただ髪に触れ、ただ頭を撫でられているだけなのに、何故かとても落ち着けて、何故か少しだけ涙がこみ上げて来た。

「うん……でも、もう少しだけエクソシストで居させて。必ず皆の所に、ティキの傍に帰るから。――それに」
「それに?」
「それに適度に離れていた方が、会えた時の喜びも大きいでしょ」

ぎゅぅっと強く抱きしたまま顔を少しだけ上向かせる。久しぶりに見たティキの顔。彼は一瞬キョトンとした表情を浮かべていたけれど、直ぐに笑ってくれた。

「ま、確かに素直なイヴも見れるしな」
「雨の中でも待ってる健気なティキも見れるしね」

言葉と共に笑い会う私達。そんな私達の頭上から、同じように抱き合い、そして笑いあう彦星と織姫の声が聞こえたような気がした。



闇夜にキスをした
一年に一度きりの逢瀬
二人はそれで幸せなのだろうか
それとも――私達が貪欲なのだろうか


 
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