これも一種の駆け引きです。



「あ。アレンも今から食事?」
「はい、イヴもですか?」

時刻は午前。久方ぶりに教団のベッドで夜を明かし、少し遅めのブランチをと食堂へ向かっていると、不意に背後から少女のソプラノ声が聞こえてきた。
その声に反射的に振り返れば、そこには仲間であり友人である少女事イヴの姿が。ラフな格好からして、彼女もまた少年事アレンと同じ休日を貰ったのだろう。

「一緒に行ってもいい?」
「勿論。イヴなら何時だって大歓迎ですよ」
「私の料理盗み食いできるもんねー」
「それもあります」

同じ寄生型という事もあり、二人の食事量は常人の倍以上はある。故に、"少しぐらいなら相手の料理を盗み食いしてもばれない"という事なのだろう。それならば最初から頼めばいいのでは、とも思うのだが、隣の芝生は青く……もとい、美味しそうに見えるものだ。

「足りないからって私まで食べないでよ」
「ラビじゃないんだから食べませんよ」
「え、ラビって人食べるの? マジ?」
「特に女性が好みみたいです。危険だから近寄らない方がいいですよ」

この間もイヴの事美味しそうだって狙ってましたから。と笑顔で告げるアレンに対し、「まじでか」と本気で眉を潜めるイヴ。どうやら言葉が噛み合っているようでいないようだ。

「神田にも気をつけて下さいね。主食は蕎麦ですが、サイドメニューとして偶に食べるみたいですよ」
「いやいやいや、ユウは大丈夫でしょ。食細そうだし」
「そこが彼の狙いなんですよ。油断させてガブリって奴です。第一彼のイノセンスは刀……つまり包丁でしょ?」

淡い微笑を浮かべるアレンの言葉に、「ハッ!」とイヴへと衝撃が走る。
言われてみればそんな気がしないでもない。……かなり無理やりではあるが。

「私の周りに二人も人肉嗜食-カニバリズム-が……!?」
「リナリーやイヴは特に美味しそうに見えるそうなので、傍に居ても油断しては駄目です。常に一歩離れた距離で、常に警戒てないないと」
「う、うむ。そうだね、リナリーにも教えてあげないと」

小さく頷くイヴの顔は薄っすらと蒼白しており、恐らく本気で信じているのだろう。常人なら「ありえない」と笑い飛ばす所だが、エクソシストという職業柄容易に信じてしまうらしい。何せ、否がおうにも異変や摩訶不思議体験と遭遇してしまうのだから。――もっとも、アレンにとってはその方が好都合が良い訳で。

「ですから、迂闊に二人に隙を見せたら駄目ですよ。もし身の危険を感じたら僕を呼んでください。イヴの為なら何処にいても直ぐに飛んでいきますから」
「う、うっす」

清清しい程に爽やかな笑みを浮かべるアレン。だがその笑みに妙な恐怖を感じたのか、はたまた彼の言葉に感動したのか、イヴはただ静かに頷いていたのだった。




僕は嘘つきなんだよ
だって、君を独占したいんだもの


 
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