四月馬鹿、またの名をエイプリルフールと呼ばれる四月一日。
ヨーロッパの『嘘の新年』が広まり、何時の頃から『嘘をついても許される』という世界的風習に変わった日。
凄い所では、国をあげての"騙し合い"をするらしい。しかも『最も凄い嘘』を付いた人には賞まで送られるというのだから、これでは『嘘をついていい日』というより、『疑心暗鬼になる日』だ。

そして――そのターゲットとなった哀れな人物がここにも一人。


「それが俺だと」

「うむ」


腕を組んでいる私の首が縦へと動く一方、前で正座させているティキの首がガックリと項垂れる。妙にシュールだ。更にその頭には、先程私がつけた漫画のような瘤が。写真に収めておけば、強請りのネタになるのではと思う程に情けない。


「今日はイヴが何をしても怒らないって言うから、すんげー良い日だと思ったのに」

「だからって行きなり入ってきて襲うのはどうかと思うんですけど。大体そんな嘘に引っかかる方が信じられないわ」


どうやら、エイプリルフールと言う事で早速ターゲットにされたらしい。勿論仕掛け人は、悪戯大好きロード・キャメロット。大の大人が子供の口車に簡単に乗るなんて……。いや、もしかしたらティキの場合、逆に"口実"にしのかもしれない。本心では嘘臭いと思いつつ、欲求に負け、あまつ利用した、と。これだから男という奴は。
――ん、逆に? 男?


「……そういえば、エイプリルフールって国によっては様々なんだって。英国では午前中だけみたいだし、日本では『日頃の不義理を詫びる日』だとか。発祥のヨーロッパも、昔は逆に嘘を付いちゃいけなかったみたい」


勿論全て文献で読んでだけであり、今尚続いているのは定かではない。……というか、そっちは、今は関係ないから置いとくとして。


「そこで提案なんだけど、今日一日嘘を付かないって言うゲームしない?」

「ゲーム?」

「うん。どうせ一日、と言うかもう半日ぐらいしかないし、別に難しくないでしょ?」

「そりゃそうだけど……急になんで?」


言葉と共に珍しく怪訝な表情を浮かべるティキ。相変わらず危機本能だけは無駄に鋭いと言うか、勘が良いというか。ま、だからと言って私も引き下がるつもりもなく。


「私、ティキの事好きだよ」

「へ?」

「ヘタレで無知で学無し職無し無一文だけど、私の事想ってくれてるから好き」

「なんか貶されてる気しかしねぇんだけど」


貶されているのか、告白されているのか。呆れるべきなのか、喜んでいいものか。
そんな複雑そうな表情を浮かべるティキを前に、ニッコリと笑みを浮かべる。


「本当の事を言っただけ。今日一日嘘をついたらいけないからね」


了承を得た訳でもなく、強引にゲームを始める私。もしかしたら更に顔を顰められる――かとも思ったけど、当然杞憂で終わった。淡い警戒こそ見せているものの、ティキの表情はすっかり喜びへと傾いている。……うーん、単純というか、ティキらしいと言うか。


「ほんとに俺の事好き?」

「うん」

「他の奴らよりも?」

「うん、好き」

「ロードや千年公よりも?」

「ティキが一番好き」


ニコニコとした笑みを浮かべながら告げると、「やっぱりいい日だ……!」と感動している素振りを見せるティキ。普段あんまり言葉にしないだけに、相当嬉しいらしい。自分で言っててちょっと恥ずかしいけど、これも今から始まる"作戦"の為。顔に熱が篭りそうなのを何とか押し止めては、なるべく笑みを浮かべ、いよいよ本題へと移る。


「ティキは、私の事好き?」

「そりゃもちろん」

「家族やイーズ達よりも?」

「当然だろ」

「じゃあ、一昨日一緒に歩いてた女の人は?」

「ああ、あれアクマだよ。千年公の仕事でアクマを政府機関に侵入させてたんだ」

「へぇ〜。んじゃ、私の縫いぐるみの腕をもいだのもティキ?」

「寝てるイヴから引き剥がそうと引っ張っただけだなんけど、結構脆いんだなぁ」

「昨日の買い物すっぽかしたのは?」

「それはただ忘れてただ…………あ」


しまったと言わんばかりに、ティキが自分の口を塞ぐ。けれど、そんな事をしても一度口を伝った言葉が取り消せる訳もなく。


「ふーん、やっぱりそうだったんだ」


先程以上に笑みを深めていく私と比例し、ティキは見る見る蒼白していった。



Honest Game
「や、い、いまのは言葉のあやというか、つい咄嗟に嘘」
「ちなみに負けた方は一週間言いなりだから。言霊で強制ね」
「事実デス。ゴメンナサイ」
「んじゃ次。私の下着が一枚無いんだけど、知らない?」
「…………(俺、殺されるかも)」


 
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