「世話かけさせんな!」
「アーアー、キコエナーイ!!」
「耳元で叫ぶぞテメェ!」

 大声を上げてドタドタと走り回る青年と少女。修練場である為暴れ回る事は間違っていない。……が、当人達に"修練"と言う意思や意図もない。
 彼らはただ逃げ回る逃亡者と、ソレを追う追跡者として走り回っているのだ。

「あの二人って仲いいですよね。兄妹みたいっていうか」
「そうさなぁ。どっちかってーと姉弟だけど」
「ああ。出来の悪い姉と柄の悪い弟ですね」
「うまい。座布団一枚」
「オィィッ! 見てないでたーすーけーてー!!」

 同じ修練場にいるアレンとラビに助けを求めるイヴ。――だが、君子危うきに近寄らず。触らぬ神になんとやら、が今の二人の心境である。
 追いかけっこが始まってかれこれ数分以上。ひたすら逃げ回り続けている逃亡Y者事イヴも凄いが、同じようにかれこれ追い掛け回し続けている追跡者事神田も執念深い。さらに。

「テメェを連れて行かねぇと飯が食えねぇだろうがッ!」

 空腹であるらしく、その気迫と表情はまさに鬼神さながらだったとか。

「コムイも考えたよなぁ、イヴ捕獲の為にユウを使うなんて」
「蕎麦で釣れる分簡単且扱いやすいですしね」
「ああ!? なんか言ったか、モヤシ!」
「イヴ〜、もう観念して行って来いって。イノセンスの修理なんて直ぐ終わるさね」
「嫌ダァアア!! コムイの修理だけは受けたくないィィ!!」
「まぁ、その気持ちは痛い程分りますけど……」

 イヴの悲痛の叫び声を聞き、アレンの瞳が何処か遠くへと向けられる。
 普段でさえ(何を仕出かすか分らない為)恐ろしいと言うのに、手術台の上に固定された挙句、凶器(修理具)を持って笑う彼の前に差し出されるのだ。手も足も、ましてイヴの場合は声すらもだせない恐怖。それは体験――即ち寄生型でないと分らないだろう。
 気分はまさに怪物に差し出され生贄。或いは、まな板に上げられた魚と言った所だ。

「ユウ! 私と蕎麦、どっちがだい」
「蕎麦に決まってんだ、ろっ!」

 大事なの。そう告げるイヴの言葉を遮っては、神田の足が目に付いた竹刀を蹴り上げる。前ではなく上へ。足元から手元へと蹴り上げられ、更にその直後、前方へと投げつけられていた。そして。

  ――ごんっ

「あでええっ!?」

 神田の手から投げ飛ばされた竹刀はイヴ……ではなく、天井付近に飾られていた『精神統一・毎日鍛錬』と書かれている額縁に命中。挙句その衝撃で額縁が落下し、丁度真下を通りかかったイヴへと見事にクリーンヒットしたのだった。

「そ、即答です……か……」

 幸い角ではなかったものの、額縁の打撃力はアクマの一撃にも勝っていたらしい。もしくは即答された挙句、蕎麦に負けた事への精神的ダメージが加算されたのか。どちらにしてもパタリとイヴが倒れた事で、漸く二人の足も止まる。

「チッ、最初からこうしとくべきだったぜ」
「いやいやいや、普通死ぬから。ヘタしたら角刺さって死ぬさね」
「コイツは殺したって死なねぇよ」
「まぁ確かに」
「や、そこ納得する所じゃねぇし」

 突っ込み所満載で追いつかないさ! と声を響かせるラビを他所に、神田は目を回して気絶しているイヴの片足を掴む。そのままズルズルと引きずっていく姿は何ともシュールだが、当人はさして気にした様子もなく。

  ――パタン

 白と赤の青年達に声を掛ける事もなく、また何事もなかったかのように修練場を後にしていった。

「……なんか、ハリケーンみたいですね」
「いんや、タイフーンさ」

 扉の外から響くゴチッやらガンッという衝突音を耳に入れつつ、修練場の内部を見渡す二人。そこはまさに大型台風が直撃した後のように、色んなものが散乱し、また破壊されていたのだった。


typhoon
「いーやーだー!!」
「ここまで来てウダウダ言うんじゃねえッ!!」
「ダアアアッ! 頼むからココ(科学層)で暴れんなァァアッ!!」



 
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