「後夜祭始まったら、迎えに行くから」
「うん、待ってるね」


  今日で文化祭が終わる。

  ベルは片付けを始めたわたしに耳元でそう言った。教室の飾りはまだそのままだけど数時間前の騒がしさが懐かしく思えた。お疲れ様でした、本当に楽しかったなあ。と自分で答えてみると少しだけ寂しくなった。しばらく友達と話していると後夜祭の開始が放送される。辺りはまた騒がしくなって同じように少し緊張した、みんなが外に出て行く中、わたしはポツンと教室に残るとすぐに教室のドアが開いた。


「なまえ行くぜ」
「ま、待ってよ!どこに行くのっ」
「人少ない所の方がいーだろ?ほらあそこなんかさ、」


  わたしの腕を掴んで強引に歩いて行くベルは、グラウンドから離れた場所を指差した。その方向へ歩き、校舎の影に隠れて向こう側からはあまり見えない場所に座りこむ。隠れている事にドキドキしてわたしは、ベルの肩に体を預けた。


「顔上げて」
「…?」


  顔を上げるとベルは優しく笑う。それが合図のようにベルの顔が近づく。あ、あ、これは、まさか。あまりの恥ずかしさに、どうにかしようとベルの体をグッと押してみるが、びくともしない。


「…やだね」


  そう耳元で聞こえた言葉に体の力が抜けた。観念してぎゅっと目をつぶったその瞬間、微かに手持ち花火の音が聞こえて、わたしは思わずその方向を向いた。


「べ、ベル、誰かいる…」
「…、おま、えなあ…!」
「うわっ…い、痛い!ベルやめてよっ」


  頭を抱えているベルに苦笑いすると頬を抓られる。わたしもベルの腕を同じように抓るとお互い笑いがこぼれた。


「いーよお前のペースで、」


  何時になく優しいその言葉に頷くとベルはわたしをぎゅっと抱きしめた。わたしってこんなにベルの事好きだったんだ。幸せだな、幸せすぎてどうかなりそう。ベル、ベル、ずっとこうしていたいよ。


ずっと一緒に、


・・・


「おい後ろー大丈夫かー?」

  はっと顔を上げるとコソコソと話していた生徒達が黙る。話し声が聞こえない授業は、一層つまらなくなった。気づかない内に寝ていたのだろう、小さく目を擦ると見ていた夢を思い出して胸が温まる。再び机に突っ伏し目を瞑り適当にペンを取った。ぐるぐると線を書いてみれば、夢の続きを思い出してじわりと視界が歪んだ。


『いーよお前のペースで、』


  懐かしく優しい言葉が木霊した。こんなに辛いなら忘れてしまった方が楽だ。そう、わたしが求めている人はもう隣には居ない。あの優しい温もりも全て過去の物なのだ。


  もうすぐ夏である。制服も衣替えであったり今日みたいに日差しが強い日であったり。夏休みがあければ最大のイベント。

  ああもうすぐ、君がいない新しい文化祭が始まる。

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君のいない季節が始まる