「センパイってあの堕王子のことがすきなんですねー」


  人の気も知らずに、それだけ言って扉を閉めていった。だからムカついてその辺にあった枕を、閉められたドアに向かって投げつける。どうやったらそう言う事になるんだ。確かにわたしの方が2つ年上だし、だからってそんなまさに恋愛対象で見てませんよーって言ってるような事言わないでほしい。

  そもそも、どういう経緯であの王子の事が好きになる?ボフッともう一度布団をかぶって、昼寝をしようとする。せっかくフランと話せて嬉しい、なんて思った瞬間の言葉で、わたしは何も言えなかった。それを肯定で受け取ったのか知らないが、結局無表情で帰って行った彼の姿が頭から離れない。それに奴はため息まで吐いていった事が、またわたしの胸の苦しさの原因でもあった。


「うっわ荒れてんね」
「誰のせいですか」
「オレのせいなんだ」
「ベル先輩のせいですよ、ばーかばーか」
「しし、いーのそんな事言って」
「…嘘ですごめんなさい」


  先輩とは確かに仲はいいかもしれない、けど好きになる相手じゃない。どこをどうみてそうなるんだろう、わたしが好きなのはムカつくけどフラン、だ。またそう思うとチクチクと胸が痛む。少しだけ顔を出していたがまたもう一度布団を深くかぶり直し、なにか用ですか?と言うと先輩は変な笑い方で笑う。思わず睨みつけても笑いは止まらない。


「ていうかさ何でオレ嫌うわけ?」
「わたしは2割くらいしか嫌ってないです」
「嫌ってんじゃねーか、お前あのカエルの事好きなんだろ?」
「はあっ!?」


  ぐうっと身を乗り出して先輩に近づけば、相変わらず笑う先輩。真っ赤じゃん、なんてからかわれれ、わたしはまたベットに突っ伏した。


「もう帰ってくださいよお…」
「しし、マジウケる」
「どーせフられるの想像してるんでしょ先輩は」
「…だってよクソガエル」


ーーーは、


  なんてマヌケな声を出せば、その瞬間扉をちょっとだけ開けて、わたしたちを見るフランの姿を見つけた。


「なんで気づいたんですかー」


そう言って先輩に話しかけるが、それどころかわたしはフランの顔なんて見れない。


「じゃーな鈍感コンビ」


  バタン、と閉まる扉に全ての終わりを感じた。またさっきと同じようにフランはわたしの部屋に居て、何か聞きたそうに見つめられる。いてもたってもいられなくて、またベットに寝そべった。


「…センパーイ」
「…」


  ボフッとベットに座り込む音がすると、もっと肩身が狭くなる。布団を握りしめると、もう一度フランはわたしの名前を呼ぶのだ。


「…すか」
「へ、」
「一歩前進、としますかー」


  いきなり布団はぎとられて、外の光と一緒に彼のわたしに顔が視界に入る。ニッと微笑した『コーハイ』とは思えない彼に、また身体の底から熱くなる。逃れない視線にもっと溺れたくなる。


そっと手を伸ばせば、誘惑は現実のものとなるから。

08.1220
溶けてなくなる