ヴァリアー入隊の飲み会の時まだ未成年なわたしは、隅っこでウーロン茶を飲んでいた。だって空気読めないとか言われたくないし、入隊時未成年はわたしだけだったから。椅子に座って固まっていると、隣に静かに綺麗な男の子が座り込んだ。


「飲めないんですかー」
「え、あ、わたしまだ…」
「あー…ミーもあのセンパイたちに止められてるんでー」
「…あ、あの」
「ミーはきっとアナタと同じ年のような気がしますー」


  ふわっと笑う笑顔に心奪われた。彼が幹部だという事も知らず、あの時確かに言葉を交わして。わたしは恋に落ちた。今でも廊下で時々見せるふとした笑顔に、胸を踊らせるのはいけない事ですか。アナタは遠い、同じ年だと聞いた時それはさぞ驚いたけれど、アナタと何か接点があるだけで嬉しかった。隊も違う、地位も違う、属性も違う。だから遠くでしか見ていられないし、きっとわたしが隣に立つなんて、あり得ない。


「フラン様!」


  時々アナタの名を聞く度、大きく胸が跳ねて勢いよくその方向を向いてしまう。見ればその隊の人が必死に話しているが、それをスルーしてスタスタとどこかへ歩いていく。それを自室の窓からじっと見つめる自分はまるでストーカーのようで、急に自分で恥ずかしくなった。


・・・


「お前異動」
「は、い?」
「クソガエルがお前欲しいんだってさ」
「えっと、…は、話が…」
「だからフランんとこに異動はいわかったら出てって」
「え!?ちょ、ベルフェゴールさま…っ」


  数日後いきなりベルフェゴール様に言われたのは、異動の指示だった。要らなくなったのかと思いきや、まさかフラン様の隊へ異動だなんて。ぽいっと書類とともにつまみ出されれば、また意味もなく高鳴る心臓。ああ、もうばか。そのままへたり込んで書類をじっと見つめると確かにわたしの異動届けだった。どうしてわたしなんかを欲しがったんだろうか、だってわたしフラン様の隊のように頭を使う戦闘にはあまり向いてはない。どちらかというと、幻術には合わないような気がする。わたしが今、あの隊に行く理由が分からない。


  もしかしたら間違えられたのかもしれない。それはそれでショックな事であるけど、この時のわたしは行動的ですぐにフラン様の部屋へ向かっていた。部屋に自ら行くのはもちろん初めてで、小さくドアをノックするとしばらく聞いてないフラン様の声が聞こえた。失礼します、とドアをゆっくりと覗くとチャームポイントの帽子を外したフラン様を視界に入れた。見たこともない姿に言葉が出ないでいると「あー…」と髪を整える。


「あの、これ…」
「ああ、センパイに聞ききましたかー」
「これ、の事なんですが」
「…」


  自分の言おうとしてた事が言えなくなった、それはアナタの視線が鋭かったからかそれにわたしが怯えてしまったのか。



「異動がヤなら別にいいんですー」
「そっ、そんなわけないです!」


  声を張り上げてしまったあたしにアナタは少し驚いた後、綺麗に笑った。じゃ、決定ですねー、なんてガサガサと机をあさってペンを取り出して書類にサインをさせた。こんなに近くで話したのはあの時以来で無駄に緊張してしまう。


「あの、なんで異動させたんですか…?」
「ん、あのセンパイの所にいたのが嫌だっからですかねー」
「え、と話が読めなかったりするんですが…」
「あの人のオモチャになるなんてまっぴらごめんだったんですよー」


  頭に?を浮かべっぱなしのあたしにまた突然はい、と綺麗にサインがかかれた書類を渡される。「あ、ありがとうございます…」と弱々しく受け取ると、綺麗に笑った。そうやってまたフラン様は、わたしにトドメをさすんだ。


なんでセンパイの隊なんですかー
あれお前アイツの事気にってんの?
じゃあミーとこにくださいよー
しし、まだあげねーよ

08.1210
いつも通りの非日常