色んな時、俺は詩乃ちゃんの事を思い出す。 たとえばレコーディング中ギターを弾けば、コラボした時の詩乃ちゃんの歌声や、歌ってる姿が思い出される。
たとえば煙草を買いに行って、ついでにと何気なく手に取っていたお菓子が、詩乃ちゃんが前に好きだと言っていたものだと思い出す。
……そんな、繋がりがないような俺の日常のワンシーンでさえ、詩乃ちゃんの事を思い出してしまう。 お互いの仕事が忙しい日は、尚更だ。
まだ付き合いだして日が経ってないのに、仕事だけは忙しくて。 それでも、少しでも一緒にいたくて空いた時間にはデートでも、って思ってる。
そう思いながらかけた電話。 繋がるまでの時間が無駄に緊張するから、あまり得意じゃないんだけど。
「…もしもし、詩乃ちゃん?」
『もしもし…夏輝さん…』
「あの…さ、次の月曜日の11時ごろって空いてる?」
『ええっと…はい、空いてますよ』
「じゃあさ、俺の好きなカフェがあるんだけど…一緒に行かない?」
『夏輝さんの好きなカフェ…、…はい、行きたいです!』
…デート、ってほどでもないけれど、と仕事前にこじつけたお茶の約束。 少しでも一緒にいたくて、詩乃ちゃんにもっと俺のこと好きになってもらいたくて、そんなやり取りを電話でして。
電話越しに詩乃ちゃんの嬉しそうな声に、俺の口角もついつい上がってしまう。
電話を切って、緩む頬を押さえながら眠りについて、また仕事をして、寝て──
遠足前の子供みたいに楽しみな心を抑えて、迎えた月曜日。
「ここのチーズケーキ、美味しいんだよ」
『そうなんですか…食べてみたいです…!』
なんて会話をしながらたどり着いた、例のカフェ。
「…えっ…」
『…どうしたんですか、夏輝さん?』
たどり着いた店先にあったのは、“CLOSED-準備中-”の文字。
「…ごめん…実はここ、冬馬がお勧めだって言ってた所なんだ……」
俺のほうが年上だから、いつも詩乃ちゃんの前では気取って見せるけど──ふとした瞬間に晒してしまう、俺の情けないこの感じ。
冬馬に教えてもらったから、営業時間、まして休業日なんて知らなかった。
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