そのまま、立ち止まって動けずにいると詩乃ちゃんの顔がぐっと近くなる。
心配そうな瞳に見つめられていた。


『…夏輝さん?もしかして、体調悪いですか…?』

俺はその声に我に返って、笑顔を浮かべる。
視線を外せば、他の恋人たちは幸せそうに笑っている。


「あ…、ごめん、ちょっと考え事してただけ。…行こっか?」

『あ…はいっ』

俺の言葉に、詩乃ちゃんはとびきりの笑顔を返してくれた。


『あ…、でも、その前に…』

詩乃ちゃんがそう言ったかと思うと、繋がれた右手が引っ張られ…手の甲にキスを落とされた。

王子様がお姫様にするようなその仕草に、思わず顔が赤くなる。

照れもあるけれど、やっぱり情けない。


…普通、こういうのって、男がするものだよね…?


「詩乃ちゃん…っ?」

『へへ…夏輝さんが元気になるように、おまじない…です』


照れたように笑って、今度は恋人つなぎをするように指を絡めてくる詩乃ちゃん。
今度はポケットには入れず、そのままだ。


…それでもまだ少しだけ、ぎこちない俺たちの距離。

切ないけれど、俺よりも詩乃ちゃんのほうが何枚も上手みたい。

サイズ違いな俺たちの恋愛経験値。

明るくて、優しくて、でもちょっと小悪魔な詩乃ちゃんの心を解き明かす方程式も、楽譜も、ギターコードもないけれど、いつか俺も君の左手にキスをするんだ。

今はこんな俺だけど、いつか詩乃ちゃんと普通の恋人っぽくなれたら……。

そう思いながら、俺は繋がれた指先に力を込めた。



blue blue

(まだ青くて、まだ甘酸っぱい。)

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