カチ、カチと時計の針が静かに時を刻んでいく。
広いリビングでひとり、テレビもつけずにいると、静寂がさらに際立ってしまい心細くなる。

今日は翔くんが仕事終わりに家に来ることになっているけれど…きっと忙しいから多分予定より遅くなってしまうんだろうな。

翔くんが来るまで何もしないのも暇なので、私はひとりリビングで過ごしていた。
暇潰しに、とやろうとしているのはペディキュア。
あくまで暇潰しなので、後で落とすつもりだ。

数本あるボトルから色を選び、手に取った。
ボトルの中は、私の好きなピンク色で満たされていた。

蓋を開け、それを足の爪に塗っていく。
マニキュアの独特なにおいが鼻につくけど、塗り始めると楽しくてつい集中してしまった。
それなのに。
――べちゃ、

『あっ……!』
今までは綺麗に足の爪に塗れていたペディキュア。
その筆が爪を通り越して指先にまではみ出してしまったのだ。
せっかく今まで上手に塗れてたのに……とちょっと落ち込む私。

『…やめた』
やる気を失った私は、まだ塗っていない爪があるにもかかわらず、除光液を取り出し、ペディキュアを落とそうとした。
除光液の蓋を手に取ったちょうどその時、明るいチャイムが響いた。

『…翔くん!』
憂鬱だった気分はどこへ行ってしまったのか。
私は除光液を置いて、玄関へと走っていった。

はみ出したペディキュアも、塗ってない爪もそのまま。


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