『寒い……』

待ち合わせ場所に指定されたカフェの前。
“あと5分で着くから!”という短いメールを受け取った私は、それまで時間を潰していたカフェでのお会計を済ませて、お店の外へ出た。

とたんに、びゅうっとつめたい12月の風が吹いて、私の体温を下げる。
すん、と鼻を鳴らして空気を吸い込むと、雪が降りそうな匂いがした。
寒いのも、雪が降るのも、ちょっと苦手な私には、
ひとりで外に立っているのにも、なんだか心細くて。

……やっぱり、翔くんが来るまでお店の中で待ってれば良かったかな?

寒いと小さく呟いてからそう思ったけれど、早くお店を出たのは、きっと私が待ちきれなかったからで。
お店の中にいても、きっと時間ばっかり、外の様子ばっかりが気になってしまって紅茶の味もあんまり分からないだろうから。
それに、翔くんを待つ時間は好きだから…寒いけれど、外で待ってるのもいいかな、なんて思った。

私の前をすれ違う人たちの流れをぼうっと眺めていると、

「……ごめん、お待たせ!」
聞きなれた声と共に、あわただしい足音が私の前でぴたりと止まった。

『…翔くん!』
ぱっと顔を上げると、そこにはすこし鼻を赤くした翔くんが、白い息を吐きながら私ににこっと微笑みかけてくれたのだった。
明らかに急いで来てくれた様子の彼に、愛おしさが募る。

…お仕事、なんだし。
私だってお仕事で、約束を守れない事だってあるんだし。
翔くんが忙しいこと、ちゃんと分かってるから、無理しないでほしくて。

それを伝えたくて彼を見上げると、
私の気持ちを軽くするかのように、

「待たせちゃったのは申し訳ないけど…でも、めっちゃ急いで来て良かった!」
これなら絶対イルミネーションに間に合うね、と心底嬉しそうな笑顔を浮かべられたから。

『…うん』
私も嬉しくなって、彼に微笑み返した。

じゃあ、行こう?と、自然に差し出された手が嬉しい。
彼の大きな手を握り返して、私たちは歩き出したのだった。




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