『……ん…』
耳に涙が流れ込んできて、目が覚めた。

…今の、夢…だった?
ぼんやりとしか思い出せないけど、なぜか懐かしい感じがした。


頬に何かが触れる感触がしてそっと隣を見ると、柔らかな栗色の髪。
私の隣で丸まって寝ている彼の寝顔を見て、胸の奥に甘い痛みが広がる。
それと同時に感じる、安心感。

『翔、くん……』
「ん……、詩乃…」

そっと名前を呼ぶと、彼も私の名前を呼んで優しく抱きしめてくれた。
…起こしちゃった、かな。
そう思って彼の顔を窺うと、まだ半分寝ていたのか、彼はまた眠りについていった。
ふわり、私と同じシャンプーの香りが私の鼻腔を擽った。

……いつからかな。
私、いつから、こんなに翔くんのことを愛するようになったのかな。

私は、一磨さんしか見ていなかったのに。
利用した最低な私だったのに、受け入れてくれた、それでも好きだと言ってくれた優しい彼のことを。

私を愛してくれた分、私も翔くんを大切にしたい。
私はもう一度、左手の薬指に誓った。

……そして、ふと思う。


君はまるで私の酸素
(…きっと私、あなたがいなかったら生きてはいけなかった)


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