『…んっ…』
カーテンの隙間から入り込む柔らかな朝の光。 窓越しに聞こえる小鳥のさえずり。 重い瞼を開けると、隣にはぐっすり眠る愛しい人。 そして感じる腰の痛み、心地いい気だるさ。
すぅ、すぅ……と一定のリズムで寝息を立てて眠る一磨さん。 その安心しきったような表情に、私の表情も緩む。
幸せに浸ってしばらく寝顔を見つめてから、朝ごはんを作るためにゆっくりと起き上がる。 服を着てから、一磨さんの頬に優しくキスを落として寝室を後にした。
起こさないよう慎重に扉を閉め、もう一度部屋中を見て回った。 洗面所には、ピンクと水色の、色違いの歯ブラシと、それにあわせたコップが2つ。 キッチンには、お互いのものを選び合ったマグカップ。 常備してあるミルクティー。 引き出しの中には、新しいエプロン。 リビングには、2人で見ると決めた新しいDVDの数々。
一通り部屋を見た後、キッチンへ戻った。 今日から、正確には昨夜からだというのに、未だに実感がわかない私。
こうしてキッチンに立って料理をしてみても、幸せなんだけど緊張しちゃったり。 だけど、新しいエプロンに袖を通したら実感がわいてきたり。 現実と非現実を行き来しているような矛盾した感覚でいっぱいになってしまう。 ただひとつ確信を持ってわかることと言えるのは、自分が幸せだということだけ。
だって、一磨さんと一緒にこれから暮らす、なんて…… 一磨さんの“彼女”じゃなくて“妻”になるなんて…… 嬉しすぎて、幸せすぎて、もうどうにかなっちゃいそう…。
そんなことを思って、ついにやけてしまいながらも、着々と出来ていく朝ごはん。
お味噌汁をお玉ですくって、一口味見をしてみた。 口の中で広がる旨味。 ……うん、なかなか上出来かも。
自分の料理に満足していると、後ろから私を呼ぶ声がした。
「…詩乃……」 『あ、…おはよ…起こしちゃった?』
火を止めて、私が尋ねると一磨さんは首を横にふった。 「さっき起きたら隣にいなかったから…帰っちゃったかと思って…」
よかった、と言って腕を回され、後ろから抱き締められた。 どれだけ一緒にいても、高鳴る胸は押さえられない。
『いなくなったりなんか、しないよ?』 ドキドキうるさい心臓を意識しないように私がそう言うと、腕に込められた力が強まった。 『だって…私たちの帰る家はここ、なんだから…』
そう言って私は自分の指を見つめた。 左の薬指には、2人だけの愛の証が輝いていた。
「詩乃…」 腕から解放され、名前を呼ばれて振り返ろうとすると、体ごと一磨さんの方を向かされた。 そして唇に感じる柔らかい感触。
『ん…』 「…愛してる」 キスの合間に告げられた言葉に、何にも変えられない幸せを感じた。
『私も…愛してる』
“本多詩乃”の生活はまだ始まったばかり。
Lovin' life (ずっと愛していきます、マイダーリン!)
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