暑い暑い8月。

私は新CM撮影のため、人の行き交う東京の、炎天下の下で立っていた。

私の隣には、ちょっと不機嫌そうな亮太くん。
その周りでは、機材を持って慌しく動き回るカメラさんたち。


暑そうに扇子で風を送るサラリーマン。
通勤時間だからか、仕事場やそれぞれの目的地へと向かう足は私たちを振り返ることなく過ぎ去っていく。


私は、暑いとはいっても隣に大好きな彼がいるならば、とすごく楽しみにしていた。
亮太くんは、暑いからかなんだか機嫌が悪そう…?


それでも、カメラを向けられた途端に表情を変える亮太くんはすごいと思う。

ちなみに、新CMは夏の終わりから秋にかけて放送予定らしい。



私たちにはCM撮影の指示が次々と出される。

「う〜ん、詩乃ちゃんそこはもうちょっとクールな表情だといいな」

『はい!』

「亮太くん、もうちょっと左に寄ってくれない?」

「わかりました」


―CM撮影に携わる人たちは、もちろん私たちも、より良いものを作ろうと何度も何度も試行錯誤を繰り返す。


……いつしか、私は頭痛と眩暈を感じるようになった。

それでも弱音は吐かずにやり抜こうとカメラに向けて表情を作った。


「もう一回、今の感じでやってみようか」


そんな声がかかって歩き出そうとした瞬間、私の目の前は真っ白になった。


『…あ、れ…?』

そのまま私は、意識を飛ばしてしまった。




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