今が真冬だとは思えない程の会場の熱気に包まれながら、私は名残惜しくも会場を後にした。
外へ出ると、熱を一瞬で冷ますような冷たい風が吹いて、早足で亮太くんの家へ向かった。

あのまま最後までライブを見ていたい気持ちもあったけど、やっぱり私は亮太くんの誕生日を祝いたいという気持ちのほうが強かったのだった。

亮太くんの家に着き、以前、亮太くんからもらった合鍵でドアを開ける。
鍵をかけ、ブーツを脱いで部屋に上がり、一番に目につくのはクリスマスツリー。
この間お邪魔した時に、ふたりで一緒に飾り付けしたクリスマスツリーは、なかなかの存在感だ。

ツリーの可愛らしいオーナメントの中には、もちろんあの無表情の天使も飾ってある。
昨年の同じ時期には怖いと思っていたそれも、今ではなんだか愛着がわく。
そんな天使にただいま、と声をかけてからエプロンを着て、準備に取り掛かった。

サラダは、ルッコラやベビーリーフの緑とミニトマトの赤、カマンベールチーズにバルサミコ酢のソースをかけて。
温かいジャガイモのポタージュには、パセリを散らして。
メインのローストチキンは、少しだけ甘味をつけて、綺麗に照りをつけて。
そして生クリームの白いケーキは、今朝仕事に行く前に作っておいた手作りケーキ。

思った以上に可愛らしくデコレーションが出来た。
頭の中で思い浮かべていたクリスマスディナーが次々と仕上がっていく。

普段の料理に慣れているからか、思ったよりもスムーズに出来た。
…まあ、昨日、試しに作ってみたこの料理をまーくんに味見してもらったのは、亮太くんには秘密だけど。
なかなか上手くできたクリスマスディナーたちを前に、満足感に浸る。

時計を確認してみると、ライブの終了時間までまだ余裕があったし、亮太くんもまだ帰ってこないだろうから、と余った小麦粉やバターでスノーボールを作った。
焼き上がりを待ちつつ使った食器や道具を洗っていると、スノーボールが焼き上がった。
洗い物を終え、テーブルクロスをかけ、そしてエプロンを脱いで着替えた。
着替え終わってから、冷めたスノーボールに粉砂糖をまぶし、ツリーを見立てて積み重ね、クリスマスディナーは予想以上に仕上がった。

『…よし、完璧!』

スノーボールの甘い香りが漂う中、私は弾む心を抑えながら亮太くんの帰りを待つ。
……早くライブ終わらないかな。
なんて、ファンの人には言ってはいけないことをついつい思ってしまう。

亮太くんをお祝いする準備は万端だ。



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