詩乃ちゃんと付き合うようになってから気付いたこと。
世間が純粋な天使とイメージする彼女は、実は俺より小悪魔で。 本人にその気はないだろうけど、その一挙一動に俺がどれだけ惑わされてるか…知ってる?
『…亮太くん!』
──ピンの仕事を終え、今日の仕事はすべて終了した。 人通りの少ない道を選んでスタジオを後にしようとしたとき、後ろから遠慮がちに呼び止める声が聞こえて俺は足を止めた。 パタパタと近づいてくる足音にも振り返らない。 相手が誰か、なんてわかりきってることだから。
足音が止まって、隣に詩乃ちゃんが並んだ。
「…何?」
詩乃ちゃんがわざわざ走って追いかけてくれたのに俺はそ知らぬふり。 …嬉しくないはずなんてないけど、ね?
『あの…亮太くんが見えたから…』
つい追いかけて来ちゃった、と俺を見つめる詩乃ちゃん。 ……そう。その言葉が聞きたかった、なんてね。言わないけど。
俺は立ち止まって、隣で歩く詩乃ちゃんを見た。 俺の視線に気付いた詩乃ちゃんも止まって俺を見る。 俺の方が背が高いから、自然と上目遣いになっててやばい。
『どうしたの…?』 「…あのさ」
『うん…?』 「今日はもうこれで終わりだよね?」
『あ…うん』 「じゃあ…俺ん家来てよ」
…こんな誘いができるのは周りに人がいないっていうのもあるんだけど、交際宣言をしたから、だよね。
『本当?』 じゃあ長く一緒にいられるね?とにっこり笑って俺の手を握る。
…ああ、最近、本当に詩乃ちゃんが小悪魔に見える。 何をされても狙ってる、俺を誘ってるようにしか見えない。
「じゃあ、行こ?」
俺が一緒に行くつもりで歩き出すと、『あ!』と何かを思い出したような詩乃ちゃん。
『私、仕事終わったら山田さんに事務所に寄るように言われてたんだった…!』 「あ…そうなんだ」
俺は平然としてるけど、内心はあのマネージャー過保護すぎ、という不満が募っていた。 ま、彼女のマネージャー兼保護者みたいなものだからそんなこと言えないけど。
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