私の好きな人は、誰よりも仕事熱心。
誰よりも仕事熱心だけど、少しだけ意地悪で、思わせぶり。


──今日は、そんな私の好きな人、三池亮太くんとバラエティー番組の収録の仕事がある。
亮太くんと私がメインMCとして出演しているバラエティー番組は、今まさに撮影が始まろうとしている。


今日のゲストは、初登場の新人俳優さん。
あるドラマで主演を勤めてから、人気急上昇中らしい。

そんな彼がゲストとして招かれているのだが─なかなかやって来ない。


どうやら、前の仕事の都合が急に変わり、遅れてくることになってしまったらしい。
もう少しで着くと言う事で、私たちは待機していた。


私は、ADさんや他のスタッフさんがいるところから少し離れたところで、亮太くんと話していた。

最近どう?から始まった会話は、新曲の事、ライブの事、それから何気ない日常会話へと変わってゆく。



こうやって亮太くんと話していると、自分が芸能人であることも忘れてしまう。
…私は、ただ純粋に亮太くんのことが好きで片思いしているだけなのだから。



何気ない会話が出来て、一緒に笑えて、それだけで今は幸せなのかもしれない。

そんな事を考えていると、先ほどまでWaveメンバーのことを愚痴交じりに話していた亮太くんの表情がふと変わった事に気付く。



「今日はあいつらもいないし…詩乃ちゃんとこうやってふたりで話せるなんて、ほーんと、ラッキーだよね。いつもは翔とか京介がいるし」

これも今までの俺の努力の成果かなあ、なんて亮太くんはおどけてみせた。



彼のその言動が私を惑わせているのを知っているのか知っていないのかはわからないけれど、亮太くんは営業スマイルとは違う笑みを浮かべた。


『私も、亮太くんとふたりで話す機会はこの番組くらいしかないから、こうやって話せて嬉しいよ』

「なかなかゆっくりは話せないしね?こんな風にさ」


亮太くんの言葉に頷いた後、顔を上げて少しだけ遠くを見つめた。

…本当に、こうして亮太くんと話せる時間がもっと増えればいいのに。


私はそうとう沈んだ表情をしていたのか、我に返ったときには亮太くんが近付いていて、私の顔を覗き込んでいた。




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