Buonanotte.




こんな日に限って、任務なんて。ついてない。

――こんな日は部屋に籠って、思いっ切り泣きたい気分、なのに。



そんなことを頭の片隅で思っていると、背後から、びりびりと空気が震えるのを感じた。殺気。


「う゛おぉい、ユリ!ボサッとすんじゃねぇ!!」

こちらの鼓膜が破れそうなほど張り上げられた声に、思わずびくりと体を揺らしつつ振り返った、次の瞬間。


びゅうと剣が空を切る音、肉を切り裂く音、それから男の叫び声なんかが一斉に私の耳に届いた。

私の目の前でどしゃっと崩れたのは、潰したはずのアジトから向かってきた死に損ないらしい。


…任務として考えるならば、"一人残さず消す"という指令に対して不備があったということだ。

とうの昔に慣れたはずの血の匂いは、なぜかいつもよりキツく感じた。

…うう、鼻が曲がりそうだ。


動かなくなった敵の血塗れの腹の側には、スクアーロに殺られた時に手から滑り落ちたであろう短剣。


「遅ぇと思って戻ってみれば、お前が気付いてねぇから焦ったぜぇ」

『……』

武器を握りしめたままの私は無言のまま、剣に付着した血を払うこの男を見つめた。


「……」

『……』

「…雑魚隊員どもは先に帰したからなぁ」

『……あっそ』

若干の無言の後、私を見下ろしながら聞いてもいないことを話すスクアーロになんだかイライラして、口から出てきたのはそっけない言葉で。

…可愛くないなあ、私。



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