――一週間後。

今まで家を出ていた時刻の10分前、私はひとりバタバタと走り回っていた。

『あー、洗い物、片付かない…まだ着替えもしてないし!』


そうこぼしても、静かな部屋には私の声しか聞こえない。
今日も遅くなるから夕食はいらない、と悪びれもせず言い放つ康一さんはもういない。
ふたりで話し合って離婚を決めて、彼がこの部屋から出ていったのだった。


『…すいません、お待たせしました!』
「…柚月……」

急いで準備をして、扉を開ける。
目の前には、ピシッとスーツを着こなした桔平さん。
名前を呼ばれ、優しい瞳で見つめられ、顔が赤くなる。
そっと手を伸ばされれば、身動きが取れなくなってしまう私の髪を撫でてくれる。

『な、何ですか…?』

「ここ…寝癖、ついてるぞ」
『え…っ、どこですか!?恥ずかしい…』

慌てて髪に手を伸ばすと、突然、その手首を掴まれて。
そのまま、彼の胸の中へと引き寄せられた。


『え、桔平さんっ…?』
ぎゅっ、と愛おしそうに抱き締められて。
突然のことに目を白黒させていると、「冗談だ」と笑う声が頭上から聞こえる。


『…もう、冗談って何ですか…!』
声をあげてそう言うと、桔平さんは爽やかに笑う。
その表情が、大好きで。
思わず目を奪われてしまう。

「柚月の反応が可愛くて、つい」

『…っ』

私をなだめるような、甘い口付けが落とされる。
そんな言い方されたら怒れないって、分かってるのかしら。

…これから先、悲しいことも辛いことも、経験して乗り越えなければいけないことが多い。

それでも、朝早く。

玄関を開けると、一輪の花を手にした王子様が迎えに来てくれる。
それさえあれば、きっと不可能なんてなくて。
日々の疲れだって、憂いだって、きっと吹き飛ぶの。
愛しいあなたがいるから、今日も頑張れる。

王子様の手を取って


「…じゃあ、名残惜しいがそろそろ行くか?」
『はい…』

「……続きは今夜、な」
『…!』


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