──ある、いつもと変わらない穏やかな午後。 大人気アイドルグループ・Waveはいつものようにバラエティー番組の収録を終えて楽屋へ戻ろうとしていた。
「あーつっかれたー!」
Waveのセンター、桐谷翔が廊下を歩きながら、うーんと伸びをする。 それを横目で見た中西京介は、はあ、とため息をつく。
「翔、お前VTRの途中でうとうとしてただろ?」
その京介の言葉に翔はギクリと反応し、翔の隣を歩いていた三池亮太が、クルッとした瞳で翔を覗き込んだ。
「そーだよ?京ちゃんが注意してくれなかったら危なかったかもよ〜?」
いつも飄々としている彼ではあるが、仕事に対する態度はいつで真剣そのものだ。
「最近忙しくて睡眠時間が足りないんだって…!」
慌ててそう言う翔に、リーダーの本多一磨が苦笑を浮かべる。 「…まあ、翔は俺たち以上に働いてるからな」
一磨がフォローするように言うと、翔は助かった、と言うかのように一磨を見る。
「…だからと言ってダンスの練習をサボるのはどうかと思うけど」 救われた表情をする翔を、それまで黙っていた藤崎義人が無表情のまま斬り捨てた。
「……」
黙りこんでしまった翔を見て、亮太が話を変えた。
「…あ、詩乃ちゃんの楽屋じゃん」
亮太の言葉に、全員が一斉に顔を上げる。
彼らの瞳に映るのは、“詩乃様”と示された彼女の楽屋だった。
「……挨拶でも、してく?」
彼女の楽屋に視線を送りながら声をあげたのは京介だ。 彼は艶のある微笑を浮かべている。
「賛成〜」
京介の言葉に一番に反応したのは亮太だった。
「俺も、挨拶しようと思ってるけど…義人はどうするんだ?」
リーダーである一磨の言葉に、義人も頷いた。 「…俺も、ドラマのことで聞きたいことがあるから…」
彼なりの肯定の言葉に、相変わらず素直じゃないな、と内心思う者がふたりいた。 しかし、そこはあえて口には出さず、揃って翔へと視線を向けた。
「翔は?行くの?」
「…行くに決まってるだろ、詩乃ちゃんに会いたいし」
翔を見ると、どうやら機嫌はよくなったらしい。 …そんな彼を見て、相変わらず単純だな、と内心思うものがまたしてもふたり。
そして、またしても口には出さず、含んだ笑みを浮かべると詩乃の楽屋の扉に近付いた。
「ちょっと待って、亮太」
扉を開けようとした亮太を、京介が引き止める。
「何でだよ、京介?」 後ろで不満そうな声を漏らす翔に、京介が人差し指を唇に当て、“静かに”のポーズをとる。
「…中から声がする…誰かいるみたいだな」
彼のその言葉に、思わず全員が黙った。 手招きをする京介のそばまで行くと、そっと楽屋の壁に耳を当てた……。
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