「どうかしら?」花の綻ぶような笑顔で女が告げた内容は確かにヴァリアー側にも旨味のある話であった。しかしてその話にこの男は乗るだろうか、と即座に疑問が過る。私はワインをもう一口含みつつそろりと視線を移せばーーああやはり、男は心底見下し軽蔑しきった最高に悪い顔で笑っているのだった。
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「やっぱり解ってねえ」「え?」「ヴァリアーに利がある?それがなんだ。俺には何のメリットもねえ。どころか糞下らねえ話を聞かされて現在進行形でデメリットばかりだ」言いながら男は愛銃を手にする。地雷を踏んだことは分かるが、展開についていけない女は可哀想に酷く慌てていた。
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彼が先の長台詞を言い終わる頃、そして私が皿に並ぶピンチョスを選び終える頃。酷く不愉快な轟音が響いていたし、女の顔は赤く咲いていた。時期になれば地元の川縁にわさわさ生えていた彼岸花に似ている。いや、そうでもないか。まあそんなことはどうでもいいけど。男は舌打ちをするか、席を立つか。
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予想は外れる。「美味いか」「その辺の店でも食べられそう」話し、話されを一度ずつ。それから立ち上がり男は個室を出ていく。まだ残ってるんだけど、と文句を言うのも馬鹿らしく、私もさっさと後を追った。
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珍しくルッスが愛車で迎えに来ていた。相変わらずの楽しげな語り口でのお出迎えはどことなく嬉しい。心中はさっぱり解らないけれど、表面上は受け入れられている気がするのだ。そんなルッスは私達の座る後部座席に雑誌を投げ込んだ。ーー美味しい名店特集。人気トラットリア20選。
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「センスが良かったのはその2冊よ」と弾む声。「絞り込みは」「やだァ!そこは一緒に悩むものじゃない!」この雑誌が渡されたのは私と思いきや男の方だったらしい。いつものように舌打ちをし、雑誌は私の方へ押しやられる。これはもしかして、一緒に選ぶのは私なのか。ぺらぺらと捲りつつ、気付く。
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ーー今回同行させられたのは、通訳でも何でもなく、美味いものを食べさせてやろうという、この男のイメージとかけ離れたオモイヤリだということに。悪い冗談としか思えない推察に唖然とするしかない私だったが、「フレンチは行かねえ」と吐き捨てられた言葉を噛み砕き、本当に一緒に行く気だ……と
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衝撃と混乱を飲み下しながら「おのぼりさんとしては美味しいトラットリアに行きたい」と返す他なかったのであった。


17.07.01 twitterにて
「良いところで筆が止まりだしまくったから30分で気晴らしにボスの夢書く」
よく分からんけど唐突にヴァリアーの本拠地に落下(物理)した女となんか知らんが女をめっちゃ気に入ってるボスの話し、くらいの設定。

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