「だから言ったじゃないの」
「面目次第もございません……」
「と、いうわけで」
「え?」
「着けなさい」
「………………え、ちょっと、アサカさ、」



「お前、なんつーカッコしてんの」

 心底気持ち悪いものを見た、と言わんばかりの言葉を投げかけられ、俺はとってもブロークンハートである。言いたくなる気持ちもわかるが。

「ノースリーブシャツなんてマニア受け狙ってる中学生男子には言われたくないです……」

 服装のパンチの効きっぷりなら俺とどっこいどっこいの少年に、溜息混じりに愚痴を吐く。
 しかし言ってから気付いたが、下っ端の俺が取るべき対応ではなかった。実に彼らしい沸点の低さで罵声が飛んでくる。そして今日の俺にはオプションつき。

「喧嘩売ってんのか!」
「うぐっ、い、痛いですってキョウ様!」
「うっせえ!」

 アサカ様に着けられた首輪からは、単独行動中の今ですら短いながらもリードが垂れている。少年こと矢作キョウ様がそんな手頃なものを引っ掴まないわけがなかったのであった。
 華奢とはいえ、キョウ様はもう中学生。力一杯引っ張られれば俺なんぞ秒殺である。
 非常にどうでもいいが、テツ様あたりなら耐えられそうな気がするから不思議なものだ。

 不意に手綱が緩められる。
 思ったよりは短時間に済んだな、と閉じていた目を開くと、キョウ様はじっと俺の顔を見ていた。―――見ているというか、睨みつけているというか。

「なんでまだ、俺のことを『キョウ様』なんて呼びやがる。皮肉か?」
「え? …………ああ、負けてしまわれたんでしたっけ」
「一々腹立つ言い方すんじゃねえ」

 『負け』の言葉にどことなく雰囲気の萎んでしまったキョウ様は、相変わらず睨みつけてきているものの、その眼光は弱まった。

「申し訳ありません」
「謝んな。こっちが惨めになる」
「ですがキョウ様」
「だから一々様付けすんなって、」
「キョウ様」

 下を向き、卑屈な言葉を吐くキョウ様。俺はその顔を両手で挟んで、視線が合うように無理矢理こっちを向かせた。

「俺にとって、AL4は―――レン様、テツ様、アサカ様、そしてキョウ様は。
 たかが一回の敗北程度でその輝きを失うことなど、決してないのです」

 たとえ、フーファイターという組織が認めなくとも。
 俺の尊敬する貴方達は、そのくらいで弱者などには成り下がらない。

 俺が貴方達を尊敬する気持ちは、決して揺らぎはしないのだ。

 キョウ様は、目を見開いて絶句する。
 そんな様子にふっと笑いが溢れ、彼の顔から手を離した。

「―――名前、」
「まあそんなわけですから。あんまり自分を卑下せんでください」
「お、おう」
「俺なんて犬扱いですからね。高々メンバーから外されたくらいで落ち込んでんじゃありませんよ」
「励ましてんのか? 励ましてんだよな?」
「励ましてますよ。俺を」
「自分をかよ!」
「まあまあ。あ、なんか飲みましょうよ。缶ジュースくらいなら買いますよ」
「やっすいな!」
「新弾買い漁ったら余裕なんかないですって」

 けらけらと笑いながら俺は隣に並び立ち、彼の背を押した。
 いつものように不機嫌そうに文句をぶつけながら歩き出すキョウ様。
 飲むならアレだ、やっぱりハンバーガー食いたい、どうせならソレも食いたい、なんてワガママがぽんぽんと飛び出してきた。
 そして食い終わった後には、どうせ俺にファイトを吹っ掛けて、ぼろくそに叩きのめして大笑いしてくれやがるのだ。
 ―――それでいい。それが、いい。


いつも通り、笑っている貴方がいい





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