リボーンがまたイタリアに帰った。獄寺も新たなダイナマイトを模索しに欧米を巡っているらしい。この期を逃すわけには、と綱吉は一緒に帰宅することになった山本名前に話し出した。
「リボーンとか獄寺くんは勝手なこと言ってるけど、オレはマフィアのボスになんかならないから!」
「そうなんだ?面白そうなのに」
「お、面白いわけないじゃん!痛いし怖いし!」
「あはは、そっか!そういえば、せっかく誘ってもらったけど私はボンゴレファミリーには入れないのな」
「あ、当たり前だよ!山本にそんな危ない真似させられるわけ……!」
「や、そうじゃなくて。うーん、なんていうかーー家庭の事情、かな?」
そういって名前は困ったように笑ってしゃがみこんだ。スポーティーな彼女に似合うハイカットのスニーカー。それに隠されている意外にも華奢な足首には、細いチェーンのアンクレットがつけられていた。そんなものを着けていたなんて気付かなかったな、と思っていると、周りをきょろきょろと見渡してから名前はアンクレットを外した。アンクレットには細長いプレートが飾られていて、そこには文字が刻まれている。
「読める?」
「とま、そ?」
「そ、じゃなくて、ぞ。トマゾ。
ーー私、トマゾファミリーのメンバーなのな」
「と、トマゾって……ええーーーーー!!?」
思いっきり驚いてると、どこからか乾いた拍手が聞こえてきた。音の方に目をやると、そこには話題のトマゾファミリーが揃っていた。拍手の主は、内藤ロンシャンだ。スキップしながら名前の横に並ぶと彼女の肩を抱き寄せた。
「そういうわけだから、沢田ちゃん!やまもっちゃんはもううちのファミリーなワケ。勧誘はノーサンキュー!したくなる気もわかるけどね!」
「えええええ山本がマフィアーーーー!?冗談だろ!?」
「いやーこれが冗談じゃないんだなーホント!!うちの有能な剣士さんなのよ、やまもっちゃんは!」
な!と同意を求められた名前は、相変わらずの困ったような笑みながら確かに頷いた。
「うちの家系は代々内藤組傘下のあさり組ってやくざの所属なんだけど、内藤組がトマゾファミリーに吸収されて組が解体されてから……このボスに幹部候補生の剣士として登用されたのな」
「せっかく目ェかけて育成中なのに余所のマフィア、しかもよりによって因縁あるボンゴレにハイってもらっちゃ困るのよ、さすがに!あっでもあれか、堂々とスパイっちゃってくれるならそれもアリじゃね!?」
「堂々すぎるだろ!!最早スパイになってないし!!」
ま、そういうわけだからメンゴメンゴ!軽い調子で騒ぐロンシャンと、名前を褒め称え出したマングスタ、彼女を引っ張り合う無口なふたりに着いていけなくなり、綱吉はひとりで家路についた。
完全に綱吉の姿がなくなると、トマゾファミリー一同はぴたりと騒ぐのをやめた。ロンシャンは名前の手からアンクレットをするりと抜き取る。
「外しちゃダメって言ってるっしょ?それ」
「っ、ごめーーすみません。口で説明するより早いかと思って」
「まあいーけど。このままボンゴレに逃げ込まれちゃったらどうしようかと思っちった!」
ロンシャンは名前の前に跪き、彼女の足首にアンクレットを着けた。チェーンにゆとりを持たせず、きっちりと留められたそれはまるで枷のようで。確かめるようにチェーンを指でなぞったロンシャンは満足げに笑みを浮かべた。その瞳は、普段の彼には似合わない仄暗い執着の色を湛えている。顔を上げ、まっすぐに名前を見据えると、はっきりと宣告した。
「名前はトマゾのモノなんだから。分かってるっしょ?」
「ーー勿論」
私は貴方のために在る。
貴方のための剣としてーー存在が許されているのだから。
名前がそれを忘れることはない。名前の瞳は揺らがない。
立ち上がったロンシャンは、くしゃりと笑って名前の手を引いた。決して簡単には離れないような強い力で、今日もまたトマゾファミリーに彼女を連れて。