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或いは守るべきもののために

2017/04/17
「なんで僕がこんなこと、て思うてるでしょ」
 くすり。そう笑いながら小声で僕に囁いた。
「――――よくお分かりで」
「あ。取り繕いもせえへん。嫌なお人やね」

 また笑う。
 笑いながら芹沢の方に目線をやり、彼女は喋り続ける。
「この時期あの人が連れてくるん、みィんな伊東さんみたいなんばっかり。
 私らみたいな子供の相手になんで時間使わなあかんの?って目ェしとるんよ。……気持ちは分かるけどな」
「僕は、あくまでも武装警察の一員だから」
「そうやね。だけど、武装してようがなかろうが、警察官なんよ」
「警察官であることと、ここで子供の世話をすることに、何の関連かあると?」
 梅は苦笑しながら僕に面と向かい合った。
「阿呆。警察官に一番必要なんは、人の心を慮ることやで」
「おもん――ぱかる、こと」
「そうそう。うふふ、一遍言うてみたかったん、慮る。こんな厳つい単語、普段使わんやろ?」
「それはよく分からないが」
「ふふふ。ええねん私の感想やもん」
 また彼女はぷすりと黒文字を突き立てて、幸せそうな顔で菓子を咀嚼する。
 ゆっくりと甘味を楽しみ、お茶で喉を潤して、それから少し、真剣味を帯びた目をした。

「警察さんはな、どんだけ面倒な相手でも親身になったらなあかんの。それが大人でも子供でも関係あらへん。
――一緒になって、考える。
刀振るうんも大事やけど、人に寄り添うことも覚えんとあかんのよ」
 そう言って立ち上がった彼女は、後は自分で考えてみィ、と芹沢たちの方へ向かっていった。

 人に、寄り添うこと。
 昔から僕には一番向いていないことだ。
 人が僕を理解してくれることなんて、一度もなかった。そうなれば、どうやったって人に寄り添う機会なんか出来ない。


ーーーーーーー

「子供は残酷なほど正直な生き物でな」
 芹沢は後ろを振り返りながら呟いた。

「こっちの感情をすぐに読み取る。そしてそれをすぐ口にする。
大人はくだらない体面気にして口先だけの否定をして。それを見て、ああこいつは駄目だな、と気付いちまう。
子供は……言うなれば『鏡』だ。自分という存在に、酷く素直に判定が返ってくる」

 今日一日を過ごす中での子供達の反応を思い返す。
 最初は戸惑いながらも、全力で共に遊んだ隊士には、同じく全力で笑みを、反応を返した子供達。
 だが、殆ど最後まで距離を置いていた僕には……どうだったか。

 子供達も、どこか一線を引いていた。窺うように、慎重に近寄ってきた。一線を引きながらも近寄ってきた彼らに、僕は自分から歩み寄ることをしなかった。
 すると子供達は、僕に寄って来ようとせず、また遠くから窺うだけに留めた。
 ――それもこれも、僕が距離を置いていたからか。
 それでも近寄ってきたあの少年を、素直に凄いと思った。
 拒絶されることは怖い。僕は、とても恐れている。
 それでも彼は、僕に歩み寄ってくれたのだ。

 じっと、最後に一度子供の頭を撫でた己が手を見つめる。
 普段は剣を、筆を、――僕という形を支えるものを握る、手。
 この手が、自ら人の手を取ることはなかった。
 人が僕に手を差し伸べてくれることなんか、ないから。
 そう思っていた。
 だが本当は、僕から手を伸ばしてみる努力を怠っていたのかもしれない。
 伸ばしてみれば、握り返してくれる人が――いたのかもしれない。

「明日、明後日。またあそこに行く。全員何か思うところがあるだろうから、あと二日でそれ全部ぶつけてこい」
「「はいっ!」」

 隊士達は、決意の籠った返事を返した。
 僕の返事も、どこか力強いものだった。
 ぐ、と拳を握る。
 この手が――誰かに届くだろうか。いや、届かせて見せる。
 小さな覚悟を胸に、僕達は屯所へと戻った。
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