プライドなんて捨てて
いつだって余裕なんてなかった。
何でもそつ無く熟しているように見せているのは、精一杯努力して取り繕った自分。
オレはいつも目の前のことに必死だ。
今だってそう。エスカバの背に舌を這わせているオレは酷く切羽詰まった顔をしているに違いない。
「ふ、っん…あ、あ…」
四つん這いの格好で、枕に顔を押し付けながらエスカバが漏らす声は快楽に濡れている。
エスカバが放った白濁を塗りたくり、随分と長いこと解した後孔はとろとろに蕩け、三本もの指をくわえ込んでいた。
指で体内を探るように蹂躙すると、室内には卑猥な水音とエスカバの喘ぎが響く。
興奮を煽るのには十分すぎる状況で、自身は痛いほどに張り詰めていた。
「ミストレっ…もう…」
そろそろ限界が近づいて来たところで、先に音を上げたのはエスカバだった。
シーツに弱々しく爪を立て、この先を懇願する声に、愛撫を施していた指を引き抜き、直ぐさま自分の屹立を押し当てる。
一息ついてから一気に後孔を貫くと、待ち望んでいた快感に、身体が震えた。
繋がった箇所は互いに熱を持ち、溶けて混ざり合いそうな程に熱い。
もはや理性なんてどこにも残っておらず、ただ欲望に任せ、抜き差しを繰り返す。
「あ、あっ…あ…ミス…レっ…!ミス、トレ…!」
「……ッ」
律動に合わせて漏れるエスカバ嬌声。途切れ途切れに紡がれるその声に、さらに自身の質量が増すのが分かる。
「ああっ…あっ…!」
エスカバの弱いところを重点的に攻め立て、追い上げると、声色はさらに甘くなった。
「気持ち良い?もうすぐイきそう?」
「…っぁ…ま、て」
そろそろ絶頂に差し掛かったところで、エスカバの胸の飾りを弄りながら問う。しかし返されたのは質問の答えとは全く異なる要望だった。
「何?」
「……顔見せろ」
「顔見てイきたいって?君も可愛いところあるじゃないか」
「…茶化すな」
「――いいよ。ただし、エスカバが動いて。この状態のままでね」
「…んぁっ…分かっ、た」
結合部分に指を滑らすと、エスカバは小さく啼いた。
本当はこんな熱に浮かされた、だらし無い顔を見られるのなんて御免だ。でもそれ以上に官能に濡れたエスカバの顔を見たいと思ったのも事実で、意地悪な条件付きで了承してしまった。
さすがに四つん這いの状態では難しいと思い、エスカバの腰を掴み、下肢の結合はそのままにベッドにゆっくりと腰を下ろす。
「んっ…」
エスカバは繋がったまま俺の上に座るような形になり、体重の重みでさらに結合が深くなったせいか、小さく呻く。
「どうぞ」
「――分かっ、てるよ…!」
エスカバが浅い呼吸を繰り返しながら、少しずつオレの上で身体をずらし、こちらを向く。
上に乗っている分、幾らかエスカバの目線の方が高い。性交の際に、こんな間近で見つめ合ったのは初めてだ。
暫く無言で視線を交わしてから、妙な気恥ずかしさを感じ、思わず目線を逸らした。
「お前でもそういう顔するんだな」
エスカバは、オレの反応に瞳を目一杯見開き、それから心底嬉しそうに笑った。
「ハッ、エスカバだって涙と涎でひっどい顔してるじゃないか」
様々な感情が渦巻く中、口を突いて出るのはいつもの悪態。
「バーカ。嬉しくて言ったんだよ。余裕のないお前なんて初めて見た」
エスカバがオレの頬に手を掛ける。
そして、どちらからともなく唇を寄せ合い、舌を絡ませ合う。
向かい合って行為を再開させ、最後に二人同時に迸らせた飛沫は、オレのちんけなプライドものとも体外に放出させていくようだった。
END
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