赤ずきんパロ-3話-




(信じらんねえ!信じらんねえ!信じらんねえ!!)

一方その頃、狼は手の甲で唇を擦り切れそうな程に擦りながら森の中を全力疾走していました。
言葉そのままの意味で、生まれた頃から一匹狼だった狼はキスは勿論、誰かと会話らしい会話をしたのも初めてです。
今日は狼にとって初体験が多過ぎました。
先程のことを思い出しては心臓が煩いほどに脈動し、顔に熱が集まります。
狼は出来るだけ速く走ることで夜風を切り、熱を冷まそうと足掻きました。




ハァッハァッハァッ

一体どれ位走ったことでしょう。狼はいつの間にか下山し、麓の村まで来ていました。
ぽつぽつと点在する民家には明かりが灯っており、夕食時なのか良い匂いもします。
今日も狩りを失敗してしまった狼は、もう何日も何も口にしていません。
ふらふらと匂いに引き寄せられるかのように一件の民家に近づくと、息を潜めながら、窓から中を覗き見ました。
狼が見たところ、家の中には体格のよい老人が一人。
どうやら夕食の準備をしているようでした。
トントントンと軽快なリズムで包丁がまな板を叩く音が耳に届き、狼は喉を鳴らします。
同時に、先程まで逃げることに必死で忘れていた空腹感が狼を蝕みました。
狼は空っぽの腹を摩ると、奥歯を噛み締め、目つきを鋭くします。
そして次の獲物をこの老人に定め、覚悟を決めてドアをノックしました。

コンコン

「はいはい、誰だ?」

声がしてすぐに足音がドアの方へと近づいて来ます。
老人は、来訪者が誰であるのか確認もせずにドアを開けました。

「―――ッ!」

ドアが開くと同時に勢いよく襲い掛かる狼。
一気に仕留めようと老人の首筋目掛けて剥いた牙は、すんでの所で彼の腕により防御されてしまいました。
老人の腕からどくどくと鮮血が流れ出します。
狼の口内に鉄の味が広がり、そして少しして塩気も混じりました。

「ううっ…うっ…」

狼の瞳から止め処なく涙が零れ落ちます。
夕方に襲い掛かった若者どころか、老人ですらも仕留められない自分が腑甲斐なくて、悔しくて、狼は涙を抑えることが出来ません。そんな狼を見て、もはや戦意はないと感じ取ったのか、老人は逃げもせず、その場に立ち続けていました。

「…お前、腹が減ってるのか」
「う、ううっ…うう…」

狼の頭上から、落ち着いた老人の声が降り注ぎます。
狼は泣きじゃくり、返答することが出来ません。
しかし狼が老人の服の裾をぎゅっと掴むと、老人はそれを返事と受け取ったのか、狼の頭を柔らかく撫でました。
狼は初めて感じる暖かい感触に驚き、顔を上げます。その顔は涙や涎で汚れ、とても見れたものではありませんでしたが、老人は困ったように笑うと狼の肩に手を添えました。

「中に入りなさい。何か食べさせてあげよう」
「…俺はっ…あんたを食べようと…した、んだぞ…」
「…そうだな。全くどうしようもない奴だ」

老人は狼の肩を押し、家の中へ入るよう促します。
狼の涙はさらに溢れ出し、暫く止まりそうにありませんでした。


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