愛と呼ぶにはまだ早い -1話-
「ねぇーエスカバー」
「……うわっ、やられたー…」
「エスカバってば」
「ちょっと待て。今いいところなんだよ」
「………」
ここはミストレーネ・カルスの部屋。
8畳程の綺麗に掃除された部屋にはミストレとエスカバの二人きりだ。
だが、エスカバがこの部屋に招き入れられてから早3時間、未だ二人の間に会話という会話はない。
それもそのはずで、エスカバは部屋に入るやいなや新作のゲームソフトを発見し、それからずっとミストレそっちのけでゲームに熱中していた。
最新技術が施されたゲームからは、今にも画面から飛び出して来そうなモンスターがリアルな呻き声を撒き散らせながら襲い掛かってくる。
幼児が見たら間違いなく泣き出してしまうだろうその映像も所有者のミストレにとっては見慣れたものであり、うんざりとした表情で画面を眺めていた。
部屋に響き渡るのはゲームの音声と、時折漏れるエスカバの感嘆の声のみ。
ミストレは髪を弄りながら、本日何回目になるか分からない溜息を吐いた。
まさか部屋の主である自分が放置されることになろうとは思ってもいなかった。今後、一人用のゲームは見えない場所に隠そうと心に決めつつも、現状を打破する解決策は中々思い付かず、ふて腐れる他ない。
(…つまんないの…)
こうなってしまったエスカバはちょっとやそっとじゃゲームを中断することはないだろう。ソファ代わりに腰掛けたベッドから全く微動だにすることなく、視線はモニターにくぎづけだ。3時間そのままの体勢を維持していることから、いかにゲームに没頭しているかが分かる。
ミストレは気を紛らせるために、雑誌でも読もうかと本棚に手を伸ばす。
勤勉なミストレらしく、本棚の大半が参考書により占められていたが、美への追求も疎かにしないよう、一番下の段には男性向けのファッション雑誌も同様に肩を並べていた。
ミストレは昨日買ったばかりのファッション雑誌に手をかけたが、ふとその横にあった雑誌が目に入りそちらに目的を変更する。
にやりと口元を歪めて目的物を引き抜くと、乱雑な動作でページをめくり、エスカバの目の前に広げて見せた。
「ジャーン」
「うわっ、何すんだよ!やめろ!どけろ!」
エスカバの視界に広がったのは、全裸の女性が雌豹のようなポーズで挑発している写真。そう、ミストレがエスカバに広げて見せたのは紛れも無いエロ本だったのだ。
エスカバは面白いほどに動揺し、必死に雑誌を振り払おうと両手を振りかぶる。
先程までしっかりと握って離さなかったコントローラーは反動で宙を舞い、床に放り出された。同時にモニターからはGAME OVERの文字が表示されていたが、パニック状態のエスカバは気づく由もない。
ミストレはより一層笑みを深くすると、エスカバを逃がさないよう、背後から身体を抱え込むような体勢でベッドに座った。
「ねぇ、エスカバはどんな子が好み?」
左手でエスカバの身体を拘束したまま、右手のみで器用に雑誌をめくる。
「し、知らねぇっ!」
「知らない?興味ないわけじゃないよね?」
「興味ねぇよ…!」
そう口では言いつつも、耳の後ろまで真っ赤に色付いた状態では全く説得力などなかった。
ミストレはエスカバの股間部分を押し上げているものに目敏く気づくと、そこにするりと手を伸ばす。
「嘘つき」
「……っ」
ミストレは明らかな硬度を持ったものを己の手で確認すると、エスカバの耳を舐め上げた。
腕に抱いた身体がぴくりと揺れたのを感じ取ると、言いようのない熱が沸き上がるのを感じる。
同時に胸の奥で確かな征服欲が芽生えしまった事実に、静かに苦笑した。
***
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