スタートライン



円堂は人気者でいつも輪の中心にいる。
年下は勿論、同い年や年上にも慕われる傾向があると思う。頼れるリーダー的存在といったところだろうか。
円堂が皆に好かれる理由はよくわかる。俺も円堂の事が好きだから。
だが、他の皆と決定的に違うのは俺が円堂に向ける感情が友人としての好意ではないという事。
もっとそれ以上の感情を抱いてしまったという事。
俺だけのものじゃない。円堂は皆のものだ。
分かっている。
好きになっても無駄だと言い聞かせようとしても、想いは膨らむ一方だった。
早く断ち切らねばいけない恋であることは理解している。
サッカーのみに集中するためにも、いつか想いが爆発して円堂に迷惑をかけないためにも。

そう腹を括れば、足は自然と稲妻町で最も高いところに位置している場所に向かった。
今日はサッカー部の練習は休みだったが、きっと円堂はそこでタイヤを相手に自主練をしているだろう。

そう高を括り鉄塔広場に出向うと、やはりそこには一生懸命タイヤに立ち向かう円堂の姿があった。

「うおおおおお!」

架空の敵相手ですら一切手を抜くことはしない、全力な姿勢。タイヤをがっしり受け止める度に弾け飛ぶ汗は夕日に反射してキラキラと輝いていた。一連の動作はどれも素早いものであるはずなのに、目の前の光景がスローモーションで流れる。円堂の力強く、ダイナミックな動き一つ一つに魅了される。
足が地面に張り付いてしまったかのように動けず、暫く目線を外すことが出来なかった。


「あれ?豪炎寺?どうしたんだ?」
「あ、ああ……」

随分と長い間、見とれていたようだった。
自分が話しかけるよりも早く円堂に気づかれてしまい、思わず赤面する。

「豪炎寺も自主練しに来たのか?」

人好きのする笑顔を浮かべながら円堂が近づく。
使い古されたグローブを外し、肩に手を置かれるとどくんと鼓動が高鳴った。
想いを断ち切ろうと会いに来たというのに、気持ちが揺らぎそうになる。

「…今日は円堂に話があって来たんだ」

それでも、力一杯両手を握りしめ、意を決して口を開いた。

「そっか!」
「………」

円堂が真っ直ぐ俺の瞳を見つめ、次の言葉を待つ。
言葉を発しようとするのに、いざ告白をするとなると口が思うように動かない。真摯な瞳に射抜かれ、喉がからからに渇くのを感じた。

「どうした?何か話があるんじゃないのか?」
「………っ、今日は……」
「今日は?」
「…円堂に…告白するために来た」

つっかえるような喉から言葉を搾り出す。
もう円堂の顔を見ることは出来ず、俯いた。

「俺は、円堂のことが好きなんだ」
「俺も豪炎寺のこと、好きだぜ?」

――違う。

心のどこかで求めていた「好き」の言葉も完全に友情としての意だと分かると、胸が苦しくなった。
やっとの思いで口にした決死の告白も円堂にはまるで伝わっていない。

「なんだ、そんなことか〜。俺が豪炎寺のこと嫌いなわけな―――っ、んんっ…」

これ以上言葉で伝えようとも無駄だと思った。己の唇を無理矢理円堂のそれに押し付ける。
キスと呼ぶにはあまりにも粗末な行為。
もう、どうにでもなれと思った。後戻り出来ないことを理解しながらも、元々この想いの先などないのだ。

「――これで分かっただろう。」

突然のことに円堂は呆気に取られているようだった。
これから軽蔑されるだろうか。円堂がそんな狭量な人間ではないことを熟知しているはずでも不安に押し潰されそうになる。

「――いきなりすまなかったな。忘れてくれ」

逃げるようにして背を向ける。
一刻も早くその場から逃げ出したかった。しかし振り出そうとした腕を掴まれ、それは叶わなかった。
今ここにそんなことを出来る奴は一人しかいない。振り返り、動きを制した人物を捉えると目頭が熱くなった。

「円堂…どうして…」
「どうしてって、俺まだちゃんと返事してないだろ?」
「それはもういい。用事は済んだ。帰らせてくれ」
「嫌だ」
「…もうこれ以上俺に惨めな思いをさせないでくれ。円堂のことをそういう目で見ていたのは悪かったと思ってる。でももう―――っ!?」

いきなり掴んだ腕を引き寄せられ、同時に唇に温かい感触が降り注ぐ。
先程と同様、唇が接触していたのは一瞬で、ちゅ、と小さな音を立ててゆっくりと離れた。
息が頬に触れるほど間近で円堂の瞳に捕らえられる。

「俺もこういう意味で豪炎寺のこと好きみたい」

何で気づかなかったんだろうな、と円堂は頭を掻きながら続けた。

「う、嘘だ…」

あまりの展開に、ただ呆然と立ち尽くすしか出来ない俺を円堂が優しく抱き寄せる。
頭で理解するより先に、心臓が早音を打つ。

ずっと我慢していた涙は堰を切ったように溢れ出して止まらなかった。


END



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