僕らの天使




天使が舞い降りたのかと思った。





「わああ…!おにいちゃんのかみみどりいろだーっ」





好奇心に溢れた瞳で見上げてくるその笑顔は、間違いなく高尾だ。ただし、やたら距離が遠いというか、小さい。小さすぎる。
その姿は明らかに四、五歳程度のサイズだった。

そもそも。どうしてこうなったのか。
高尾と黒子が発端でやたら大所帯でストバスに来たところまではいい。
いつの間にかいなくなっていた高尾が小さくなって戻ってきた。いや、意味が分からないのだよ。

無意識に顔をしかめていたらしい。ちび高尾(仮)がオレのズボンをきゅ、と握って「みどりのおにーちゃん、ぐあいわるいの?だいじょうぶ?」と聞いてきた。





「……っ」

「緑間君、いくら高尾君が天使ばりに可愛いとはいえ愛でる以上は犯罪ですから。あと顔が気持ち悪いです」

「煩い黙れ黒子。貴様の方こそ普段の無表情はどうしたのだよ、表情筋が弛みきって最早別人だぞ」

「ふ、ぇ……っおに、ちゃんたち、けんか、しないでぇ……!」

「け、ケンカなんてしていないのだよ!」

「そうですよボクたちこんなに仲良しですよ高尾君」





オレたちを見て泣き出すちび高尾に慌てて黒子と肩を組んで見せれば「あははっ、なかよしさんだあ」と笑みを取り戻す。





「オマエらなにして……なにこの高尾のちっせえの」

「わー、もともとちっこい高ちんがもっとちっこくなってる」

「え、えええ?このちっこいの高尾っちスか?!」

「わ、すげえ!かみながいおにいちゃんおっきい!いちばん!」

「オレ?あ、まいう棒たべるー?」

「たべゆ!あ……えっと、たべる」

「「「!!!」」」





まだ言葉が拙いらしく、言い間違えを恥じらうちび高尾。
なんだこの破壊力は……!
あの青峰すら顔を真っ赤にさせ手で口を覆って視線を反らしている。

あまりの衝撃に固まっていると不意に黒子がしゃがみこみ、ちび高尾に視線の高さを合わせた。




「ちいさい高尾君、ボクの家族になってくれませんか?」

「かぞく?みずいろのにーちゃんの?」

「黒子ォォッ!!!」

「!!……うぇ、みどりの、にいちゃ、こわい……!」

「緑間君、キミの存在が怖いそうなので高尾君の視界からミスディレしてもらえませんか?」

「無茶を言うな!そして然り気無くちび高尾を抱き締めるのをやめるのだよ!!」





どうやらオレの大きな声が怖かったらしい。泣き出したちび高尾を慰めるふりをして「しょたかお君まじ天使…」とか呟いている黒子をとりあえず引き剥がす。
黒子という壁がなくなってちび高尾はそのまま青峰の方へ駆けて行った。
ちょっと待て、オレがそんなに怖いのか。





「あーよくわかんねえけど、とりあえずバスケすっか?」

「青峰っち……」

「んだよ何か文句あんのか黄瀬」

「あおいおにいちゃん」

「あん?なんだちび高尾」

「おれ、バスケすき!!」

「「「!!!」」」





第二爆撃は青峰と黄瀬に直撃したらしい。





「ちょ、ちび高尾っちまじ天使……っ!オレはなぢでそう……!」

「黄瀬君、キミ仮にもモデル(笑)でしょう」

「いやでも今のは、ヤバかったっス!ほら青峰っちなんか崩れ落ちてる!!!」





地面におちた青峰は震えていた。
恐らく歓喜に打ち震えているのだろう。天使は存在したのだという歓喜に。





「皆、なにを騒いでいるんだ?」

「あ。赤ちん。高ちんが天使になっちゃったんだけどー」

「敦?何を今更、和成はもともと天使……」





颯爽と現れた赤司が、言葉を続けようとしたとき。
ちび高尾が照準をそのオッドアイに定めたのがわかった。





「あかのおにーちゃんすごい!めがきれい!!」

「地上に舞い降りた天使か!!!!!!!」








激しくちび高尾の身の危険を感じたオレはそのまま小さな身体を抱えてその場を離脱したのだった。








「そのまま秀徳に戻ってくるとかオマエ」

「いひゃい……っ、ふぇ、え」

「おー泣け泣け」

「宮地さん!何しているんですか!」

「ほっぺつねってるだけだろ。柔らけーなあ」

「うぇぇん!おとーさぁん!はちみつのにいちゃんがいじめる!!」

「おっ、お父さん?!」

「「「ブフォッ!!!」」」

「大坪キャプテン……」

「やめろ緑間……!可哀想な目でオレを見るな!!」








((翌日))
(なあ真ちゃん。オレ、昨日途中から記憶ないんだけどなんでたろ?)
(さあな)
(あとなんで大坪さん皆にお父さんて呼ばれてんの?)
(ブフォ)




→あとがき


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