◎愛を重ね着してみる
ほんの出来心というか悪戯心というか。
ちゃんとロッカーに服直してなかったあの人が悪い。
「あれ?」
練習が個人練に移ったあと、汗を吸いまくったシャツを一回着替えとこうと部室に戻ったときだ。
ベンチの上に明らかに慌てて置き去りにされましたー、な体のワイシャツと学ランが目に入った。
ふと、委員会かなんかで練習開始ギリギリに体育館に入ってきた宮地サンのことが頭をよぎる。
もしかしてと思い近寄って手に取ってみると、タグのとこに予想通りの名前。
「ふはっ、ズボンは直したのに上だけ入れ忘れるとかどんなお茶目さんだよ」
皺になったらマズイだろうからと少し迷ったけど勝手にロッカーを開けて学ランを先に片付ける。で、ワイシャツも、と思ったところで広げたそれをまじまじと見つめた。
当たり前だけどデカイ。
宮地サンはオレより大きいからそれだけ服もサイズが変わってくるのは当然だけど。
「…………」
誰もいないし。いいかな。ちょっとくらい。
いやいやまずいだろ。いくらなんでもそれは一歩間違えたら変態っぽいし。
不意に湧いた考えにそっとベンチにワイシャツを畳んで置いてみる。
いやとりあえず先に着替えようぜオレ話はそれからだろ。と自分の着替えを済ませてから、視線を白く存在を主張しまくってる宮地サンのそれに戻す。
葛藤こそしてみたけど、好奇心には勝てなかった。
「うわ、やっぱでか……袖余る」
ワイシャツに袖を通してついでにボタンも留めてみる。まず肩幅からして違うし、そりゃ袖も余るわな。
袖をぱたぱたと振ってみたらフワリと清潔感のある香りが鼻を擽った。あ、これ宮地サンの匂いだ。
「へへ……彼シャツー、とか言っ……」
「高尾……?」
「…………」
聞こえるはずのない声が聞こえて。
意識が全部そっちに持ってかれる。
ギシギシと音がしそうなほどぎこちなく振り返ったら、そこにはワイシャツの持ち主様の姿。
み ら れ た 。
一気に血の気が引いて、次の瞬間には血液が沸騰するかと思うくらいの熱に襲われる。
「オマエそれ、……っ!」
「み、みっ、宮地、さ……!!これは、その……ッ!」
「ちょ……ッ待て、待て落ち着けいやまてその前にオレが落ち着け!」
「……、へ?」
羞恥心のあまり焦って袖で顔を隠すけど、その余った袖が宮地サンの服を勝手に着てしまった事実を突き付けてきて。
もう恥ずかしすぎて死ねると俯いてたら切羽詰まったような宮地サンの声が聞こえて思わず顔を上げてしまった。
「宮地サン……?」
「オマエ、ほんと、ないわ……」
「あの、弁解のしようもなくすみま……」
「入ってきたのがオレだったからよかったものを、そんな、……いやほんとオマエ!あー、もう!」
「はっ?」
謝る前に遮られて、挙げ句、なぜか思いっきり抱きしめられてしまう。
「…み、宮地サン、怒ってないんですか?」
「……ちょっとムカついてる」
「……ですよね、あの、まじでごめんなさい」
「あ?ちげーよ。オマエに怒ってんじゃなくて」
すぐ傍で、さっきワイシャツから香った宮地サンの匂いがした。
「こんなところでそんな無防備なカッコしてる高尾にときめいた自分にムカついたんだよ」
(オマエ、今日家来い帰ったら覚えてろ)
(えぇぇっ??)
→あとがき