君への思いは星のように瞬いて消えていくものだと思っていた
俺が好きなのは真ちゃん。
これは真ちゃんには内緒。
てゆーか、言うつもりもない。
もし、両想いでも付き合うつもりはない。
だって…あいつの未来を、俺という存在で汚したくないから。
いつまでもキラキラとしていてほしい。
あのシュートのように…。
美しく放物線を描いてゴールネットを捉える。
あの左手から生み出される無二のシュート。
思えばあのシュートに惚れ込んでから真ちゃんへも気持ちが移った。
自覚したとき、まさかっ…!って思ったよね。
男が男に恋なんて…社会から見たら異端だろ……?
だけど、いまはどうしようもなく、あいつのことが好きなんだよな…。
でもこの気持ちを伝えると、間違いなくあいつにもあいつの家族にとっても人から隠したいことになるんだろうな。
だからさ、俺を諦めさせてくれよ。
期待させるようなこと言うなよな。
そんな、そんな風に優しいとこ見せんなよ……。
それじゃあ…お前の前から消えたくなるよ…。
けど神様ってやつは俺の味方じゃないんだね。
「高尾」
ほら、あいつが呼んでいる。
その声に俯いていたら、腕を引っ張られた。
「なにをうだうだ考えてるか知らんが、お前は考え込む癖があるのは知っているのだよ」
……よく見てるんだね、俺のこと。
「なにか悩みがあるんだろう?俺ではだめなのか?」
「そんなことない、大丈夫だよ」
だめだよ…。真ちゃんだけには言えないよ……。
「そうか…。でも大丈夫そうな顔をしていないのだよ」
真ちゃんのその綺麗な左手が俺の頬に触れる。
あぁ…だめだよ真ちゃん。
その手は俺なんかに触れるためにあるんじゃないんだから…。
「大丈夫だってば…っ」
やんわりと俺の頬からその左手を外す。
そのとき、少し真ちゃんの表情が強張ったように見えた。
「っ…!高尾…!!」
急に大きい声で名前を呼ばれたから体が震える。
そんな俺の肩を真ちゃんの俺よりも大きい両手で掴まれた。
「しんちゃ…」
「なぜだ…!?俺はお前にとってそんなに…っ!そんなに頼りないというのか…!?」
あっ…。真ちゃん。
ごめんね、俺のせいで…俺のせいで泣かせちゃうなんて。
「真ちゃん…ごめんね、ごめん……」
俺の肩を掴む手に力が強くなった。
俺って、なんでこんなに臆病なのかな…。
真ちゃんを悲しませるようなことしちゃうし…もう最低。
「お前が謝るようなことはなにもないのだよ…っ。俺が自分の好いてるやつのこともわかってやれないのが悪いのだよ…」
……?
俺の好いてるやつ…?
そ、それってつまり、そういうことだよね…?
「…なに、間抜け面を晒しているのだよ」
「……へ?」
んんっ!?どういうこと…!?
「なんなのだよ…。お前のことが好きだと言っただろう」
「はぁ…!?」
ちょっ…!俺のいままでの苦悩はなにっ!?
「お前がなにか悩みごとがあるなら…好きなやつのためだっ…聞いてやろうと思ったのだよ」
「え?真ちゃんが俺のこと好きって…だめだよ!!」
俺の否定に眉を寄せる真ちゃん。
「なぜなのだよ」
「だって…俺と付き合ったことでこの先、真ちゃんの将来の…その、汚点になるかもしれないし……」
「……はぁっ」
真ちゃんの溜め息に無意識に体がビクつく。
自然と顔も下を向いてしまう。
「そんなことか」
「っ!!そ、そんなことって…!お前のことを思って、俺は…!」
「それ自体が俺のためではないとなぜ思わないっ!」
肩にあった腕が俺の両頬に触れ、真ちゃんと目線を合わされた。
「俺のことがどう思われるよりも、お前が俺から離れていくことの方が怖いのだよ」
「……」
「どうせ、高校を卒業したら俺の前から消えるつもりでいたのだろう」
「なんで…」
「お前の考えなど簡単にわかるのだよ」
そうして俺の頬を優しく撫でて俺が欲しかった言葉を…。
「好きだ、高尾」
「あっ…」
「お前がどう思っていようと俺はお前を離す気はないのだよ」
「…ふふっ…真ちゃん独占欲強いね」
「ふん…お前にだけなのだよ」
本当、真ちゃんって無駄に真っ直ぐだよな。
そこも好きなんだけど…。
「それで、高尾。返事はどうなのだよ」
その顔わかってんだろ…?
俺の気持ちなんて見透かされてる。
「もう…せっかちだな、真ちゃんは。それに返事なんてわかってるくせに」
「それでもお前の口から聞きたいのだよ」
もう、本当馬鹿正直だな。
「好きだよ。俺も真ちゃんが好き」
「知っているのだよ」
「うっせーよ」
くすくすと笑いながら真ちゃんに抱き付くと背中に腕が回り、抱きしめ返された。
あんなに悩んでた自分が馬鹿らしく感じ、でもやっぱり真ちゃんのこと好きになって良かった。
「あ、忘れていたのだよ」
「ん?なに?」
「誕生日おめでとうなのだよ」
「……あっ」
そっか、今日俺の誕生日だった。
ふっ…自分の誕生日の日にこんなことになるとか…っ。
「せっかくお前が生まれてきたことを祝う日なのにお前が変なことを考えてるからっ…」
「変って…!大事なことだろ!俺とお前の将来の話なんだから…!!」
「だからとって、今日でなくても良かっただろう!」
「俺もいまそう思ったけどっ!」
「いいか!今度から悩みがるときは俺に言うのだよ!」
「えっ…」
「わかったか!?」
「お、おう…」
俺の返事に満足したのか、おもむろにポケットを探り始めた真ちゃんは、そこから一つの小さな箱を取りだした。
「誕生日プレゼントなのだよ…」
「ありがと…」
真ちゃんから受け取った箱。
その中に入っていたのは…鷹を模ったネックレスだった。
「真ちゃんこれ…」
「その鷹がお前のようだと思ったら、気になってしまったのだよ…っ」
それで買ったと。
そんなに俺のこと思ってくれてたんだ…。
意識しなくても口元が上がってしまうのがわかった。
「本当にありがと!真ちゃん!」
そのネックレスを付けようと思ったけどなかなか上手く付けれないでいると真ちゃんが付けてくれることになった。
「全く、お前は器用が売りじゃなったのか?」
「これとそれは違うっつーのっ!」
「…できたのだよ」
「ありがと!似合う?」
「あぁ、お前を思って選んだんだ。似合わないわけがないのだよ」
「っ……!そ、そっか…っ」
そうはっきり言われると照れるっ…。
「あぁ、そうだ」
「ん?」
「知っているか?高尾。アクセサリーには相手が贈るとき意味があるのだよ」
「意味?」
「あぁ。お前に贈ったそのネックレスは…」
真ちゃんの顔が耳元に寄せられた。
「"相手を独り占めしたい"という意味があるらしい」
「なっ…!?」
「一生離す気はないのだよ、高尾」
あれ?俺って、やばいのに捕まっちゃった…?
まぁ、そんな真ちゃんを好きになったのは俺なんだけどね。
「上等なのだよ!」
「真似をするな」
「へへっ」
そうして消えるはずだった俺の思いは真ちゃんからの口付けによって、俺達の間に一本の糸を紡いだ。
(さよなら恋した俺、初めまして愛を知った俺)
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