いつもより少々の糖度を上乗せして
「高尾」
「なに?真ちゃん」
濁りのない、透明度の高い眼差しが俺を見上げる。
俺はこの目が好きだ。
こいつには伝えたことも、そもそも伝える気もないのだよ。
伝えたところで付け上がるのが目に見えている。
そうでなければ、顔を赤らめて恥ずかしそうにするのか?
いや、それはないだろうな。
それで、今日はそんなひょうきん者な高尾の誕生日だ。
実は…なにを贈るかまだ決めていないのだよ……。
あ、あいつがっ…!俺の誕生日に物を渡してきたからっ…渡されたからには返さないといけないと言われているのだよっ!
決してあいつのためではないっ…!断じてなのだよ!
「真ちゃん?どったのー?」
「断じて違うのだよ!」
「うぇっ…!?どうしたんだよ、急に」
声に出ていたようだ。
「な、何でもないのだよっ…!」
「そ、そう…?」
なら、いいんだけどさ。といって少し笑いながら高尾は前を向いた。
そのまま、歩く高尾の旋毛が俺の視界を掠める。
素直に言ってしまった方がいいのだろうか…。
誕生日プレゼントを買っていないと。
別に忘れて買っていないというわけでもない。
ただ、なにを買ったらいいのかわからなかったと言えば、いいだろうか…。
「なんだ。そんなことかー」
む…?
「別にプレゼントなんていらないよっ!」
なぜ高尾にバレて……。
「ブフォwwwwwww全部駄々漏れだよwwww真ちゃんwwww」
なっ…。
「なにぃぃぃいぃぃいぃっ!?」
「wwwwwwwwwwwwww」
俺の行動に爆笑する高尾に目を見張る。
一生の不覚なのだよ…っ!!
「wwwwwww…ふふっ、真ちゃん。ほんと、俺プレゼントいらないよ?」
「……なぜなのだよ」
「だって……」
そこで一息ついて、笑って俯いていた顔を上げる。
「真ちゃんと一緒に、隣にいられればそれだけで俺、幸せだもん」
そう言って笑う高尾の、その表情はとても穏やかで。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
「だから、なにも気にしないでっ!いつも通り、俺を隣にいさせてくれればそれでいいからっ」
嬉しそうに笑う高尾の右手を手に取り、随分と寒くなってしまったその手を自分の上着のポケットに自らの手と一緒にしまい込んだ。
「ふぇ…?」
不思議そうに、少し頬を赤く染めて見上げてくる。
「寒くなったからな。カイロ代わりにちょうど良いだろう…!」
「……ふっ」
さっきよりも頬を赤らめた高尾の顔に笑顔が花咲く。
「うん…!ありがと真ちゃん」
「…どうってことないのだよ」
「へへっ…!」
絡まり合う腕に凭れるように高尾が身を預けてきた。
今日ぐらいは甘やかしてやろうか…。
そう自分の中で結論付けて、高尾に祝福の言葉を。
「……誕生日…おめでとう、なのだよ…」
それは小さい声だったけど、高尾には届いたようで。
俯いた姿から小さく顔を出しているほんのりと朱色に染めた耳が返事を返した。
(憎らしくも愛しい恋人へのささやかな熱情を)
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