第5話*任務

−どうして、こんなことになっているんだろう。
「・・・何アレ?」
「サーカスとか?」
ヒソヒソと話す女子生徒の声が耳に入る。
−どうして、私はこんなことをしているんだろう。
私は頭を抱え・・・たくても抱えられなかった。


−始まりは、先週の私の同好会初活動の日。
いきなり『布教隊長』という不名誉すぎるものに任命された後。
『せっかく咲穂ちゃんが布教隊長になったんだから、何か新しい布教活動したいねー♪』
−里沙先輩の、この一言からだった。
『そうねぇ、何がいい?咲穂さん』
いきなり話を私にふってくる会長。
『いやいやいやいや。新しい活動なんてしなくていいですから!』
『遠慮なんてしなくていいんだよー。咲穂ちゃん』
『いやいやいやいや!遠慮なんてしてませんから!』
結依奈先輩ののんびりした言葉に反論する私。
『咲穂ちゃん遠慮してるから、こっちで決めようか』
萩也先輩がのんびりと話をすすめる・・・って私無視かいっ!?
『そうだねぇ・・・じゃあ、着ぐるみ着て布教とか!』
『いやいやいやいやいやいや!!そんなの嫌ですよ!!』
『それいいわね!それにしましょう!』
顔をぱっと明るくして言う会長・・・ってまた無視かい!
『着ぐるみなんか着たくないですよ!ていうかまず布教隊長やりたくな・・・』
『着ぐるみ着て布教って、楽しそうだね!咲穂ちゃん頑張って!』
文句をいいかけたその瞬間、光介先輩の輝きすぎな笑顔が私に突き刺さった。
・・・うぅ・・・っ!そんな笑顔で言われたら、着るしかないじゃないかあぁ!
『じゃあ咲穂ちゃん、今日着ぐるみ注文しておくから、来週からよろしくね♪週一回でいいから♪』
『いや・・・それは・・・』
『僕もチラシ配り手伝いに行くから、頑張ってね!』
『私やります!頑張ります!』
うわあぁあぁ!何やってんだ私いぃ!
私は光介先輩の笑顔にやられ、反射的に返事をしてしまった。


−そして、現在に至る。
歩きの人や自転車の人が次々と入っていく正門。
その前に、私は立っていた。−着ぐるみを着て。
−しかも、ショッキングピンクのうさぎの着ぐるみ。
うぅ・・・何で私がこんなことしなくちゃいけないんだあぁ!
私はまた頭を抱えようとして・・・やっぱりできなかった。


「ねぇ、咲穂ー、今日正門の前に立ってた着ぐるみ見た?」
一時間目が始まる五分前。実希が私の机の横にやってきた。
「い・・・いや!見てないよ!今日、裏門から入ったから・・・!」
必死に弁解する私。いや、別に悪いことをしてる訳じゃないから弁解とは言わないような気がするが。
「え?咲穂が裏門から入るなんて珍しいねぇ。」
「う、うん。たまには気分転換、って思って・・・・」
ごめん。本当にごめん。私は決して実希にウソをつきたい訳じゃない。
でも、正門でショッキングピンクの着ぐるみ着てニュートンの布教活動やってるなんて言えないんだああああ!
「そっかー。あの着ぐるみ、色とか奇抜ですごかったんだけど・・・。何にも言わないし、立ってるだけで何かすごい怪しかったよ」
「そ・・・そうなんだ・・・。見たかったなー・・・」
やっぱり怪しかったのか!やっっぱり怪しかったのかよ!
いやまあ当たり前なんだけど!
「そういえば・・・前に咲穂を連れて行った人・・・何の用事だったの?」
びびくぅっ!
実希が、ふっと思い出したように言った。
「い・・いや・・・あれはその・・・何というか・・・」
「何というか?」
「あ、あれはですね・・・その」
キーンコーンカーンコーン・・・・
しどろもどろな私の言葉を遮って。チャイムがナイスなタイミングで鳴った。
「あー、鳴っちゃった・・・。じゃあ、またあとでねー」
「う、うん・・・」
私が放課後まで、この方法で実希からの質問をはぐらかしたのは言うまでもない。


「咲穂ちゃん!朝の布教活動お疲れ様ー♪」
−放課後。ため息をつきながら教室の戸を開けると、里沙先輩が笑顔で出迎えてくれた。
笑顔なのに言ってることは危ないような気がするが。
そういえば、今日は、光介先輩と会長は用事があっていないようだ。
「どうも・・・お疲れ様です・・・」
私は疲れた声で返事をする。が、里沙先輩はかまわず続ける。
「着ぐるみすっごく可愛かったよー♪みんなこっち見てたしね!」
いや。それは怪しんで見てるだけだと思いますが。
私は心の中でツッコミを入れる。
「でもねー、一つだけ問題があったみたいだよー」
結依奈先輩が、いつもと同じ調子で言った。
「あぁ、そういえば・・・生徒会長がどうたらこうたらって言ってたなー」
萩也先輩も、いつもと全く同じ調子で言う。
ていうか・・・生徒会長ってやばくないか!?
戸惑う私をよそに、里沙先輩はのんびりと、いつの間にか取り出した林檎をかじりながら説明をする。
「何かねー、生徒会長が『許可を取らずにあんなことしちゃだめ』って言ってきたんだよねー」
生徒会長直々に苦情入れたんかい!当たり前だけど!
「じゃあ、布教活動は中止・・・」
「よーし!みんなで咲穂ちゃんの着ぐるみを許してもらえるように生徒会長に直談判しに行こー♪」
がたんっ!
布教活動中止を訴えようとした私を遮って、里沙先輩は席を立った。
「さあ、みんな行くよー♪咲穂ちゃん、着ぐるみ持って!」
「いや、ちょ、もう中止でいいですから!ちょっとおぉおお!!」
私の叫びを全く聞かず。
「咲穂ちゃん、行こー」
「さ、行くか」
結依奈先輩も、萩也先輩も席を立つ。
「いや、だからいいって・・・!あぁぁぁぁああ・・・・」
結依奈先輩に手を引かれて、いや、引きずられて、私は生徒会室へと連れて行かれた。

もう布教活動、中止でいいですから。
これ以上事を大きくしないでくれえぇええ!!

生徒会長がきっぱりと布教活動を断るのを期待して。
私は心の中で叫びまくったのだった。


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