第3話*転回

「この同好会が何か分かったところで・・・。咲穂さん、本題に入るわよ」
いまだ『ニュートン研究同好会』の意味が分かっていない私をよそに、部長は言った。
「本題?」
私は、ゆっくりと顔を上げ、聞いた。
すると、部長はずいと一歩前に出て−
「咲穂さん・・・あなたには、このニュートン研究同好会に入会してもらうわ!」 
「誰が入るかあぁぁあああ!!」
即効で断りました。
何が楽しくてこんな訳の分からない同好会に入らないかんのだ。
私はもっと健全で健やかな感じの部活に入りたい!
何か健全と健やかってかぶってる気がするけどそこはあえて気にしない方向で!
「何を言ってるの!今入らないと一生入れないのよ!?」
「それでもイヤです!」
しつこく勧める部長を、私はまたきっぱりと断る。
ていうか、一生入れなくても全然構いませんから!
「じゃあ、しょうがないわね・・・!里沙!アレを!」
「了解です♪」
里沙先輩が、片手に何かを持って、私の前にやってくる。
あれは・・・林檎?
「ねぇ、咲穂ちゃん、コレ何か知ってる?」
「何って・・・林檎?」
赤くて丸くて・・・どう見ても林檎にしか見えない。
「うん。この林檎はねぇ、フラワーオブケントっていう品種でね、俗称を『ニュートンの林檎』っていうんだよ」
「ニュートンの林檎?」
私がオウム返しに聞くと、里沙先輩は目を輝かせながら言う。
「ニュートンがこの林檎が落ちるのを見て、万有引力の法則についてのヒントを得たっていう逸話が残ってるから、そう呼ばれてるの♪」
へぇー、そうなんだ。フラワーオブケントかぁ・・・。
覚えてたら、何かに使えるかもしれない。でも・・・
「その林檎が・・・どうかしたんですか?」
別に今林檎を見せたって、どうにもならないだろう。なのに、何で?
「実を言うとねぇ、咲穂ちゃん」
里沙先輩はにやり、と笑って言った。
「この林檎、渋くてすっぱくて・・・不味いんだよ!」
「は、はぁ・・・そうなんですか・・・」
あぁ、そうなのか。美味しくないんだね。うん、それしか言いようないよね。
私が微妙なリアクションをしても、里沙先輩は気にせず続ける。
「それとねぇ、もうひとつ。実はこの林檎、ウチの学校の裏庭で育ててるんだよ!」
「へぇぇ、すごいですね」
これは素直にすごいと思った。学校で林檎って、あんまり育てないよね。
「収穫した実は大事にとっておいて、研究して、最後にみんなで食べるんだけど・・・、
あんまり美味しくないから結構余っちゃうんだよねぇ」
そう言うと、部員・・・というか今考えると会員たちがうんうんと頷く。
「と、言うわけで、咲穂ちゃんが同好会入ってくれないんだったら、この林檎を毎日可愛くうさぎちゃんにして下駄箱につめておいてあげるね!ぎっしりと!」
満面の笑みで、里沙先輩は言い放った。
「それはやめてくれえええぇぇ!」
思わず私は叫ぶ。
だって、毎日不味い林檎が下駄箱にいっぱい詰まってるって・・・・。
シューズが林檎臭くなるし!何かの呪いかと思うし!まず人の目気になるし!
「じゃあ咲穂ちゃん!同好会入ろうか!」
里沙先輩はすっと手を差し出す。−が。
「それもイヤです!!」
私はまたきっぱりと断った。
確かに林檎下駄箱詰め攻撃もイヤだが、この同好会に入る方もイヤだ。
「むぅー、これでも落ちないか・・・。じゃあ、萩也ぁ、あとよろしくね」
里沙先輩はぷくっと頬を膨らませながら後ろにさがった。
あぁ、よかった。セーフセーフ・・・ってまだいるんですか!?
里沙先輩に代わって、萩也先輩がゆっくりと前に出てくる。なにか大きい紙を持って。
これは・・・誰かの肖像画?って、もしかして・・・
「咲穂ちゃん、もし同好会に入ってくれないなら、このニュートンの肖像画を毎日50枚づつ机の中とロッカーの中に詰め込むよ?」
やっぱりかぁぁ!!よし予想大当たり!じゃなくて!
「やめてくださいぃぃ!!そんなことしても入りませんから!!」
私はやっぱり断り・・・というか拒否をする。
「うーん、仕方ないわね・・・こうなったら、最終手段よ!」
部長・・・というか会長は後ろの机をごそごそと探り、二つのものを取り出した。
それは、何かの紙と円柱状の黒いもの。
そして会長は机の上でその紙に何かを記入し、その黒い円柱状のもののフタを開けて−ぽんっと、その紙に押し当てた。−って、ちょっと待てぃ!もしかてそれは・・・!
「さぁ咲穂さん!もうあなたの入部届は完璧にできてるわよ!結依奈!これ職員室の川中先生のとこに出してきて!」
「分かりましたー」
結依奈先輩は会長からプリントを受け取ると、ドアをすばやく開け、廊下をダッシュする。
ていうか速っ!!あんなにのんびりしてそうだったのに!
「さぁ咲穂さん、これであなたの入会は決定よ!」
勝ち誇ったように言う会長−
いやいやいやいや。私がすぐに退部届だしたら済むことだし。よし、そうとなったら今すぐ退部届を取りに−そう思って私が開けっ放しのドアから外に出ようとしたその瞬間。
「あれ?もう儀式終わったの?」
まぶしすぎる光介先輩が、目の前に現れた。って、今までどこ行ってたんですか!
「ええ。今日は早く切り上げたの。それより、咲穂さんの入会が決定したわよ!」
「いや、違・・・」
会長が意気揚々と言い出したのですかさずツッこもうとした、が。
「え!?そうなの!?ありがとう咲穂ちゃん!」
光介先輩の嬉しそうな声に遮られる。
「いやぁ、やっぱり会員は多い方が楽しいからね!咲穂ちゃんが入るとすごく楽しくなりそうだよ!」
う、あ、ちょっと待って、私はそんなつもりじゃあ・・・・!
「そうね!じゃあ咲穂さん、明日から月水金、ここに来てね!鍵開いてなかったらドアをどんどん叩いたら誰か空けるから!それでもいなかったら、職員室の川中先生に鍵を借りて開けてね!ちなみに私は3年の染藤千夏。よろしくね!」
「咲穂ちゃん、よろしくね!」
「2年の青木里沙だよ♪よろしく♪」
「2年の戸田結依奈です。よろしくお願いしますー」
「2年の北原萩也。よろしく」
次々と、会員が私に笑顔であいさつをする。
え、ウソ、もう断れない感じですか!?いやだぁぁぁぁああ!!
光介先輩、お願いだから今はそんなキラキラした笑顔で見つめないで!
ていうか、今考えたら、何で『紺野』の印鑑を持ってるんだぁぁ!!
とにかく、誰かウソだと言ってくれぇぇ!!



紺野咲穂、もうすぐ16歳。ある意味、人生のターニングポイントを迎えました。


[ 3//10 ]


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