第1話*起爆剤

人生には「ターニングポイント」
というものがあるらしい。
学校への入学、結婚、出産。それを境に、人生が一気に変わる。そう聞いたことがある。

−では、これもそうなのだろうか?
私は手元のプリントに目を落とした。「入部届」そう印刷されたプリントには、
「紺野咲穂」と自分の名前だけが書かれている。
「あぁー・・・・。どうしよ・・・・」
私は何も書かれていない「希望部」の欄を見て、ため息をついた。
決められない。したいことがない。目的がない。あちこち部活を回っても、どうしても決められない。
いい部活がない、ということはない。何か、こう、心にビビッとくるモノがないのである。
はぅ・・・。
もう一度ため息をつき、私は今までの自分を思い返した。


小、中学校とずっと、バスケット部に所属していた。
小6の時と、中3の時は部長もしていた。運動は全般得意だし、自慢ではないが体育の成績はいつも5だった。
−じゃあ、どうしてそんなに部活に迷っているのか。
確かに入ろうと思えばバスケット部にだって、ほかの運動部にだって入れる。
−でも。私は誰に何と言われようが(言われたことはないが)文化部に入りたいのである。
小中合わせて9年間も運動をしてきたし、もう運動はいい。
それに、私は自分のイメージに合った部活をしたいのである。
私は今までずっと友達に言われてきた。−文化系だよね?と。
長く伸ばした茶色の髪。タレ目。年の割には高い声。そのすべてが文化系−らしい。
自分ではそう思ったことは一度もないのだが。
初めて会った人にはもちろん、いつも一緒にいる友達にも、「吹奏楽部だよね?」と聞かれる。
だから。私はバスケット部だってば。
−と、いうことで、私はもう自分のイメージを崩さないように生きるという覚悟を決めたのだ。

しばらく立ち止まってプリントをじっと見ていたが、そんなことをしていてもしょうがないと私はまた歩きだした。
何か同好会でもいいから、いいとこないかなぁ・・・。
そう思って、私が3棟の端についた、その時。
−目の前に、半開きになったドアがあった。
「あれ?ここ・・・」
私は目を見開いて持っていた校内図を見る。
そこには確かに、こう書かれていた。
『4棟入り口』
「え・・・?何で?」
私は開いた口が塞がらなかった。
この学校の校舎は、4棟まである。−しかし、4棟は6,7年ほど前から閉鎖されている。
だから、4棟と3棟をつなぐドアはいつも鍵がかかっていて、誰も入れない。
そう、友達から聞いた。
−それなのに。このドアは私の前で、半分だけその中を見せていた。
ここって多分、入っちゃいけないから鍵がかかってるんだよね。
と、いうことは何か中に入っちゃいけない理由があるとか−・・・。
・・・入って、みたい。中に一体何があるんだろう。見てみたい。
でも、中に入ってるのがバレたら、怒られるかも・・・。
「・・・・・・・」
しばらくの好奇心とマジメな心の戦闘の後。
−がしゃんっ!!
「えーいっ!入っちゃえー!」
結局、好奇心に負け、私は4棟行きのドアを勢いよく開けたのだった。

「あれ・・・。別に普通じゃん・・・」
長く続く廊下の真ん中で。私はちぇっ、と悪態をついた。
つまんないの・・・。何かアヤシイ教室とかあると思ったのにー。
帰ろうかな。何もないし。
私は時間のムダだ−と頭をかきながら、くるりと入ってきたドアに顔をむけた。
その時だった。
「え?何でここにいるの?」
後ろから唐突に、声が聞こえた。
びびくぅっ!!
も、もしかして・・・。
私はおそるおそる後ろを振り向く。
−そこに。背の高い、3年と思われる男子がいた。
あぁあああぁやっぱりぃぃ!!
見つかった。どうしよう。ヤバい。
頭が混乱する。思考回路が働かない。
「あれ?もしかしてドア開いてた−・・・?」
声がゆっくりと近づいてくる。
どうしよう。どうしよう。うぅ、働け思考回路!!
「うーん、だれが最後に入ったんだっけ・・・」
距離が、どんどん近づく。
ここで、やっと私の思考回路が働き始めた。そして、出た答えは。
『逃げよう。』
−だだだだだだっ!
そう頭の中の私が決定した瞬間、私の足は入ってきたドアとは逆の方向に動きだした。
「えぇっ!!ちょ、ちょっと!!」
後ろから焦ったような声が聞こえる。
私はチラッと振り返り−あ。
私はふとあることを思い、立ち止まって後ろを振り返った。
そして、自分を追いかけて息を切らしている先輩をじっと見つめる。
少しハネた黒髪。かっこいい、と言ってよい顔立ち。黒ぶちメガネ。長身。
次々と、相手の分析を始める脳内。
「・・・っはぁ・・。やっと追い付いた・・。君、足速いね・・・」
先輩が追い付いてきて、自分の前に立つ。
近くで見るとさらによく分かるそのさわやかさ。
−やっぱり。この人は−・・・。
私は確信した。・・・この人は、私の好みのタイプど真ん中っ!!
「あのっ!」
私は思いきって話しかけてみる。・・・あることを聞くために。
「何?」
「あの・・・そのメガネっていつもかけてるんですか!?」
「は・・・はい?いや・・・本読んでたからかけてただけだけど・・・」
やや困惑しながらも、先輩は優しく答えてくれる。
−やったぁぁっ!やっぱり黒ぶちメガネは時々かけるって設定じゃないと!
昔から、私はメガネを時々かけるという人にときめいている。
何でだろう。元からの性質、もしくは本能だろうか。
−まぁとにかく、私はこの先輩に、一目ぼれをしてしまったのだった。



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