第2話*sigh〜半強制的に始まる世界

「ねぇ、部活何入ったらいいと思う?」
時刻は3時半。まばらに人が入った学食の端のテーブルで。
長い黒髪を2つに結んでいる少女−篠原てるは顔を近づけて言った。
「・・・は?」
「だから、部活何入ったらいいかなあ?って」
俺が思わずそう口にすると、てるは顔を少し遠ざけて言う。


今日は高校入学式の次の日。
オリエンテーションやら集合写真撮影やらでかなり忙しかった。
今は放課後になり、それぞれが好きな部活の見学をしている。
・・・で。
「いやそうじゃなくて。何で俺がお前から部活の相談を受けるんだよ」
クラスでてるを何回か見ても、1人でいることは一度もなかった。
部活の相談なら今日友達になった人にすればいいだろう。
なのになぜ俺をわざわざここに呼び出して相談しているのか?
「だって・・・光君なら部活に詳しそうだから!」
どがしゃあぁああ!
俺は派手にイスから転げ落ちた。
「俺もお前と一緒に入学したんだから、ここの部活に詳しい訳ないだろーが!」
「・・・光君詳しくないの?」
こいつは背景に『しょぼん』という文字が出そうなほど落ち込む。
「・・・ああもう分かった!部活見学行くぞ!」
そんな様子を見かねて俺は立ち上がってこいつの腕を引っぱる。
−ここで泣かれたら困る。本当に。
「本当!?やったー♪」
てるは嬉しそうに立ち上がって言う。
はあ・・・何なんだろうこいつ。
俺はこっそりとため息をついて外へ向かって歩き出した。



吹奏楽部。パソコン部。演劇部。美術部。華道部。茶道部。
手当たり次第に文化部を回った。−が。
「うーん・・・微妙だなあ・・・」
てるはどの部活にもそう言って興味を示さない。
全く・・・本当に面倒くさいやつだ。
ちなみに運動部は、こいつが全く運動ができないと言うので真っ先に却下となった。
「じゃあ・・・あとは文芸部しかないな・・・」
俺は昨日の朝配られた部活のパンフを見ながら言った。
「文芸部!行きたい!」
その瞬間てるは目を輝かせる。
その様子を見て、俺は、最初にここに行けばよかったとまたため息をついた。


「失礼しまーす・・・」
コンコン、とノックをして。
てるは『国語資料室』という部屋のドアを開けた。
「あ、新入生!?こんにちはー♪」
明るい声で出迎えられる。タックピンの色からして、どうやら2年のようだ。
「彩菜ちゃん!新入生来た!?」
奥から出てくるテンションが高い男。
タックピンの色は・・・うわこいつ3年かよ・・・。
俺が嫌そうな顔(他人から見るとそう見えたと思う)で見ていると、
その3年は部屋の入口に立っているてるに近づいてきた。
「うわ可愛い!俺、文芸部(ここ)の部長なんだけどさ、ちょっと見学していく?」
「本当ですか!?見学します!」
こいつ部長かよ!こんなチャラいのに!
ていうかてるもこんなヤツの誘いにOKするなよ!
俺が心の中でツッコミを入れまくっていると、部長(信じたくないが)が
「そこの男の子も見学していく?」
と言ってきた。
正直俺は今すぐここから立ち去りたいが、てるが「行くよね?」と目で訴えているので
仕方なく見学することにした。
・・・それに、てるをここに1人にすると何か危ない気がする。


「文化祭の時は1人1本の小説を入れた小説本を販売するんだよ。
・・・これがその過去のヤツ」
窓の近くにある2つのソファーに3人で腰掛けて。
部長(まだ若干の抵抗はある)はこんな感じ、と言って何冊かの本を俺とてるに手渡す。
−案外この部長の部紹介はまともだった。
一つひとつ丁寧に活動について説明している。
文芸部とかの活動は帰宅部のようなダラダラしているものだと勝手にイメージしていたが、そんなこともないようだ。
−もしかしたら、このチャラいキャラは俺たちの緊張をほぐすためだったのかもしれない。
俺はそう思った。
「・・・で、てるちゃん。今日ここ見学したあと空いてる?ここの近所にカフェできたから一緒に行かない?」
・・・・前言撤回。
部長(やっぱコイツでいいかな)はさりげなくてるの肩に手を回していたりする。
てるも突然の誘いに困惑している。
・・・しょうがない。3年だけどいいか。コイツだしな。
俺が間に入ろうと口を開こうとした−その瞬間。
「部長、そのくらいにしといて下さいよ」
部屋の隅にある本棚の方から、静かな男の声がした。
「えー、別にいいじゃん。直也君は頭固いよー」
「1年生が困ってるじゃないですか。そのくらいにしといて下さい」
2人の会話からすると、直也先輩は2年らしい。
・・・まともな先輩がいて本当によかった。
「はあー、直也君は真面目すぎるんだよね。ちょっとくらいいいのになあ・・・あ、そうそう」
部長・・・いやコイツは何かを思い出したように言って、
二枚の紙を机の上にあるクリアファイルから取り出した。
「はい、これ。入部するよね2人とも!」
ニコニコと笑うコイツに渡された紙は・・・『入部届』。
「あ、はい入部します!」
てるも笑って入部届に、渡されたペンで名前を書き始める。
いやいやいやいやちょっと待て!
「俺は別に入部するつもりは・・・」
ソファーから立ち上がって言いかけて。
「え、入部してくれるのー?ありがとうー」
いつの間にかてるの横に来ていた女の先輩がのんびりと言った。
「私と部長が卒業したら彩菜ちゃんと直也君2人になっちゃうって思ってたから・・・よかったぁー」
先輩(どうやら3年らしい)は本棚の前で何かを調べている2人−彩菜先輩と直也先輩の方を見て言う。
・・・この先輩、かなり穏やかな性格らしい・・・じゃねぇ!
「いやだから・・・」
「桜先輩、この子たち入部するんですか!?やったー恋バナできる子が増える♪」
−否定しようとしたその瞬間、また横から邪魔をされた。
彩菜先輩によると桜先輩、が『入部』と言ったのを聞いて、こちらに来たらしい。
「先輩優しくてよかったね、光君♪」
てるは書き終えた入部届とペンを部長に渡し、満面の笑みで俺に言う。
−こんな追い詰められた状況で。
昔から物事を断るのが苦手な俺はこう言うしかなかった。
「・・・わかりました。入部します」


入部届を書いて部長に渡す。
嫌だったら行かなければいい。そう自分に言い聞かせて。
てるは嬉しそうに、先に次の部活の日時を部長に聞いている。
その様子を見て。
・・・何かこいつを恨む気にはなれねーなあ・・・。
俺は今日何度目かも分からないため息をついた。

−そして。こいつと一緒ならまあいいか・・・少しだけ、そう思った。


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