第6話*談判

−ざわりっ。
静かな教室が、ざわめいた。
「失礼しまーす♪」
「失礼するわ」
会長と、里沙先輩。この2人の登場によって。
・・・・この空気は一体何なんだ?もしかしてこの2人って、私が思ってる以上に有名人?
−そういえば、里沙先輩が会長を会議室に呼びに行った時も、こんな雰囲気になったような・・・。
私はドアの後ろに隠れて、考える。
その間に、2人は教室−生徒会室の中へずかずかと入ってしまった。
「生徒会長はどこ?」
会長が、本を読んでいる恐らく生徒会役員に声をかける。
びびくぅっ!
役員A(男子)は不自然に肩をゆらして、恐る恐る振り向いた。
・・・え。何でこんなに怖がってんの!?会長、一体生徒会に何をした!?
ますます混乱する私の頭の中。
「え、えっと・・・この教室の隣の、生徒会準備室だと思います・・・」
目を泳がせながら、役員Aは答える。
それを聞いて。
「よっし!それじゃあ、隣の教室にれっつごー♪」
拳を握りしめ、片腕を上げ、里沙先輩はうきうきした様子で教室を出て行った。
「ありがと。失礼するわ」
そう言って、会長も、しーんとなった教室をあとにした。
いやいやいや。だからこの2人一体何者!?
私は混乱しまくって訳が分からなくなったが、今誰に聞いても答えてくれなさそうなので−というか、面倒くさい状況になりそうなので、とりあえず黙っておくことにした。


「広夢(ひろむ)!ちょっと話したいことがあるんだけど」
−がらがらがらっ!
乱暴にドアを開けて、会長は教室の奥で資料を読んでいる男子−生徒会長に声を張り上げた。
ってか生徒会長、広夢っていうんだ!苗字が柳瀬(やなせ)っていうのは知ってたけど・・・。
「さ、早く咲穂ちゃんも入ってー」
一人で考えていた私の背中を、結依奈先輩が押した。
「うえぇぇえぇえ!?な、何で私も!?」
私は両腕を激しくふって抵抗する。
「咲穂ちゃんの布教活動の存続のためなんだから、仕方ないでしょ?」
−が、しかし。萩也先輩も背中を押したため、私の抵抗はむなしく終わった。
「・・・副会長?それに里沙さんまで・・・。どうしたんですか?」
ふ く か い ち ょ う ?
勢いよく教室に入って、つんのめっている私の耳に、とんでもない言葉が入った。
しかも何か里沙先輩も生徒会長と親しい・・・みたいな・・・!?
さっきより増して混乱する私の思考回路。本気でショートしそうだよ!
「あれ?もしかして咲穂ちゃん、知らなかったー?」
私が混乱していることに気がついたのか。結依奈先輩が私の顔を覗き込んで言った。
「え?全校集会で紹介しなかったっけ?」
萩也先輩も意外、という風な顔で私を見る。
え。全校集会で紹介・・・したっけ?いや、あったような・・・。私、休んでなかったよね?え?じゃあ何で・・・そうかあぁああ!私あの時爆睡だったんだああぁあ!!
「・・・咲穂ちゃん?どうしたの?」
急にハッとなったなった私を不思議に思ったのか、萩也先輩が声をかけた。
「いや、何でもないです・・・けど、本当に会長は生徒会副会長なんですか?」
「うん。部長は生徒会副会長だよー。あと、里沙は生徒会の会計をやってるんだよー」
「うえぇぇぇえ!?里沙先輩も生徒会役員なんですか!?」
驚き、思わず尋ねる私。−ってか里沙先輩が生徒会役員んんん!?
「そうだよ。2人とも1年から役員やってるんだけど・・・優秀だよね」
萩也先輩が、答える。
うあぁあ、この2人って優秀だったんだ・・・!
「まあ、そんなことより。咲穂ちゃんも早く談判しに行かないとー」
結依奈先輩が、また思いっきり私の背中を押した。
「うどわあぁぁああ!!」
−どんっ!
「ふわ!?咲穂ちゃんも談判しに来たの?ありがとー♪」
私は勢い余って、里沙先輩に突っ込んでしまった。って違うううう!!
「いや、違・・・」
「広夢。ほら、ウチの部員もお願いしてるんだから・・・いいでしょ」
はいいいい!?
会長は私の言葉を全く聞かずに、話しを進める。
「ダメですよ。近所迷惑ですから・・・」
生徒会長はメガネをくいっとあげてキッパリと断る。
ナイス!ナイスです生徒会ちょおおお!ていうかよく見るとかっこいいな! 
これはメガネを外すとイケメンタイプ・・・じゃなくて!
私は生徒会長の言葉に、ほっと胸をなでおろした。
・・・のも束の間。・・・会長と里沙先輩が、反撃を開始した。
にやりっ、と何かを企んでいるような笑みを浮かべる2人。
うわ何する気なんだこいつら!
「へぇ・・・そんなこと言うのね広夢・・・。じゃあ、これから生徒会だよりに広夢の人に言えないあんな秘密やこんな秘密を毎回書いてばらまくわよ!」
「私はニュートンの写真集いっぱい作って学校中にばらまいちゃうからっ!もちろん全部生徒会のお金で!」
「あぁぁぁぁあ!それだけはやめて下さいいい!!分かりました!許可しますから!手に林檎が大量に入ったかごを持つのはやめて下さい!!」
会長はあっさりと降伏する・・・って弱すぎるだろおおおぉ!?
「ふう。さ、咲穂さん。許可が下りたから、これからも布教頑張ってね」
「頑張ってねー♪たまに手伝いに行くから♪」
「よかったねー、咲穂ちゃん」
「頑張れよ」
ホッとした感じで口々に言う会員たち。
−ってちょっと待てえぇぇい!!
「ちょっと生徒会長うう!?もっとキッパリ断って下さいよおぉぉ!!困りますうぅ!!」
床に四つんばいになって落ち込む生徒会長に、私は叫んだ。
「ごめんね・・・本当は断りたかったんだけど・・・・あの2人には・・・逆らえな・・・ぐふっ・・・!」
「いやあぁぁぁあ!生徒会長―!!死なないで下さいよぉぉおお!!」
・・・床に突っ伏した生徒会長をゆさぶる私。
・・・倒れて動かない生徒会長。
何かこの人とは話が合いそうだ・・・・じゃなくて。
これからも私の苦労は続きそうだ・・・・。

−生徒会長に幸あらんことを・・・
私はそう切実に願ったのだった。



[ 6//10 ]


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