胸騒ぎ
我愛羅は、
目の前で繰り広げられている
男達の会話にため息をつきながら、
心の中で大きく舌打ちをした。

我愛羅は、今、
酒を飲んで気分が良くなっている様子の
他国の代表者達に捕まり、
"今後の忍に求められる事とは何か"と称した
只の自慢話大会に
付き合わされている最中である。

隣のカンクロウはというと、
近くにいる金の国の姫君をガン見していた。

その様子を見た我愛羅は、
再び深いため息をついた。

その時、
ガハハハ!という
綱手の大きな笑い声が聞こえ、
我愛羅がそちらに視線をむけると
仲間に囲まれながら
豪快に酒を煽る綱手の姿が見えた。
近くにマリンの姿はない。

「カンクロウ、後は頼んだ。」

「は!?ちょ!おい!我愛羅!」

慌てるカンクロウへ目もくれずに
我愛羅は人混みをかき分け、
綱手の元へ向かった。

我愛羅に気付いた綱手が
手に持ったグラスを持ち上げながら、
「お前も飲むか?」と我愛羅に訪ねたが、
当の我愛羅は表情を一切崩すこと無く
頭を横に振って断り、
間髪入れずに口を開いた。

「マリンは?」

「ああ、確か…さっきバイキングの
デザートコーナーの方に走って行ったのが見えたな。」

我愛羅がデザートコーナーに目をむけると
見知らぬ男に着いていくマリンが目に入った。

「すまない、マリンを借りる。」

焦った様子で言う我愛羅を見て
不思議に思った綱手が我愛羅の視線の先を追った。

そして何かを悟った綱手は、
大声で笑いながら我愛羅に言い放った。

「借りるも何もお前の女だろう。
すぐ、取り返してこい。
後は好きにしていいぞ!
明日、朝10時にロビー集合と伝えてくれ。」

ニヤニヤした顔をむける綱手から
我愛羅は目を逸らしながら
「わかった。」と呟いた。







我愛羅は、急いでマリンの後を追うと
男とテラスへ出ていったのが見えた。

我愛羅がテラスに近づくと、外から
「実は前からお前の事気になってた。」
という男の声が聞こえた。

我愛羅の足は思わず歩みを止めた。

「…は?」

さらに、続けて聞こえてきた男の言葉に
我愛羅は驚愕した。

「なぁ、このまま俺と部屋行かない?」

「…!!」

慌ててテラスへ出ると
ドレスから覗くマリンの背中を
イヤらしい手つきで触っている男が
目に入った。

それを目にした我愛羅は
自分の中で何かがプツンと切れたのを感じた。



「…おい。」

低く冷たい声が我愛羅の口から出た。


『!!…が、』


マリンが我愛羅の顔を見て
安堵したような顔を向けたが
ただならぬ我愛羅の雰囲気に気付き、
すぐに顔を強ばらせた。


「…ん?誰だか知らないけど
邪魔しないでくれるかな?
今いい所なんだからさ。」


ハヤトは
作り笑顔で我愛羅を見つめながら
マリンの肩に触れ、そのまま自分の方へ引き寄せた。

「っ!!」


我愛羅は怒りを露わにしながら
大股でツカツカと二人に近寄り、
マリンの腕を掴むと、ハヤトから
離れさせるように自分の方へ引き寄せた。


『かっ、風影様…』


「今はプライベートだ。いつもの様に、
"我愛羅"と呼んだらどうだ?マリン。」

『え、』

次の瞬間、我愛羅はマリンの唇に
噛み付く様にキスをした。

『っ!!』

「なっ…!!」

ハヤトは目の前の光景に目を丸くしながら
身体を固まらせた。


我愛羅はマリンから唇を離すと、
ギロリとハヤトを睨んだ。

「マリンは俺の女だ。…二度と近付くな。」

我愛羅は
低く冷たい声で吐き捨てる様に言い残すと
マリンの腕を引っ張ってその場を後にした。


ハヤトはしばらく動けなかったが
先程の我愛羅の殺気立った目を
思い出し、背中に冷や汗が伝ったのを感じた。



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