「結婚してください紫苑さん!」
「一目惚れです! 付き合ってください!」
「愛してます鈴祓さん!」

しょっぱなから何のこっちゃと思うかもしれないけれど、数日前に誰かが漏らした噂の所為で、私は多くの男共から逃げ回る嵌めになった。お陰でご飯もゆっくり食べられないし、部屋の中外も薔薇の花やお菓子の詰め合わせで一杯になっていた。花を贈ってきた奴は許さない。食べれないものを貰ってもどうしようもないことを彼等は分かっていないのだろう。

……話が逸れた。噂というのは、「鈴祓紫苑が日本のいいとこのお嬢様である」というあながち間違ってもいないものだった。
まあ、そうだけども。半分離縁したようなものだけど確かにそうであるから違うとも言えないので今困っているところだった。ヒトの噂も七十五日と言うけれど、本当にそうであって欲しい。

今日も今日とて廊下を歩くと求婚  もとい、金が欲しい奴らが私に群がってきた。
ちなみにここに入学したときも同じような目にあった。まあそのときは周りが、私がこんなに暴飲暴食自由気侭な奴だとは思ってもいなかったのでしばらくしたらそれも収まった。外国人って積極的なのね。

「スオミ先生何とかしてくださいよあいつら! おちおち訓練なんか出たらアイドル並みの扱い受けるし、たまったもんじゃ無いですよ!」
「(紫苑も外見はお人形みたいなのにねぇ…)」

スオミ先生に走りつつも叫ぶと、何かちょっと失礼なことを考えているような目になった。

長い長い廊下を走っていると、漸く角が見えてきた。ここで勢いを落としたら、あの体力馬鹿共のことだ。絶対に追いつかれる。
私はそのとき、廊下の角で走ったことを壮絶に後悔した。


nine days' wonder


「……はっ、」

夢オチ。

非常に恐ろしい夢だった。珍しく冷や汗を掻く夢だったなーと思いつつ着替えてドアを開けるとそこには。

「結婚してください!」

…あまりにもありがちなネタ。この手の小説では使い古されてる。
まさか、正夢だったなんて!