*もしも幸村君が女の子だったら/微かに真幸風味


私にとってテニスは、男という強大な相手に立ち向かうことの出来るたった一つの手段だ。

「なっさけないなー真田ってば」

そう揶揄すると、真田はむむぅと唸った。恐らくは昔から自覚しているのかもしれないが、女に負けるのはプライドが許さないのか。

悔しそうな真田に私は一応礼儀として手を差し伸べた。最初と最後の握手はスポーツマンシップ。
その時に触れた手に、私は嬉しさを隠せなかった。
……真田は優しい。私の我侭にも、嫌な顔一つせずに答えてくれる。半年間ずっと逃げ続けていたときも、彼は私のことを追い求めていたのだ。

私は、こんな醜い私のことなんて忘れて、さっさと私の傍から離れて欲しいと願っていた。いつか、私に失望する日が来たら、きっと私は絶えられないだろう。
それでも、真田は私のことを忘れないでいてくれて。きっとそんな彼に、私は惚れたのだろうか。


振り払われるはずだった手


余談なのかもしれないが、私は手を握るのが好きだ。元々何かを触っていないと落ち着かない性分で、そうして過去に私が選んだのは真田の手だった。
真田の手を握っているとどことなく安心する。昔私がそう言うと、真田はしばらくの間手を繋ぐことを拒否するようになった。あれだけ懐いていたのに、と少し衝撃的だったのだが今思うとそれは思春期とか照れとかだったのだろうか。

「あのね、私真田と手繋ぐの、嫌いじゃない」

小学生のときにそう、私は唐突に言った筈だ。ある日、テニスからの帰り道。その日も真田をボロボロに負かしたんだっけか。
真田はその時初心にも照れるように顔を赤くして、御祖父さんからの贈り物だとか云う帽子を深く被ってしまった。

私もその反応に釣られて照れちゃったけど、あのとき真田はなんで顔を赤くしたんだろう、なんて。
でも、たとえ彼がどれだけ朴念仁かを知っていても、私はそのときを待ち続ける。私は知ってる。おそらく、私の予想は遠く外れたものではないのだろう。