しっしと手を払う姿が、最後に俺が奴を見た瞬間だった。致死量を超えた血が現場には流れていたそうだ。殺しても死ななそうな奴だったのに。

「あいつも、人間だったんだなぁ」

逃げなければ、もしかしたら生きている可能性もあったのかもしれない。それなのに何故逃げた? 逃げなければいけない理由があったのか。誰が追っていたのだろう。

最近は暇で暇でしょうがないので、腹いせにコムイから強奪してきた報告書を机の上に放り投げてベッドに倒れこむと、丁度スリープ状態で床に転がっていたゴーレムから通信が入った。

「あーもー、どちら様?」
  Hello,Mr.噂には聞いているわ、貴方が中央庁の“救世主様”でしょうか」
「…本当にどなたですかね?」

予備動作をつけずによっこらせ、と起き上がると、見えない相手は面白そうに笑った。一応確認すると教団の内部からの通信だが、残念ながら俺は今までこんな(綺麗かどうかは分からないけれど)女性に会ったことが無い。

「これは失礼しました。今日付けで黒の教団室長の秘書を仰せ遣いました、ブリジット・フェイと申します。以後、お見知りおきを」

その口上を聞いて、あのアホには過ぎた秘書だな、と密かに笑う。そういえば、今日は教団の人員整理日だったような気がしなくも無かった。

  
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