もしも人生謳歌主の転生先が財前だったら-1 (1/19)
いつだって、出来ないことは無かった。遠慮なんてしなかった。
それが正しいと、信じていたから。

「大阪に、転勤?」
「ごめんなぁ、折角四年間通って来たのに。でもこっちにお前だけ残すわけにもいかないだろ」

そう言われると、俺は黙るしか術が無かった。
うちの家はいわゆる父子家庭というやつだ。母親は病死、お腹の中にいた俺は九死に一生を得て今現在生きている。料理は出来るが何分来月で小五の身なので一人暮らしなんてしたらどうなるかたまったものではない。

「いいよ、父さん」

俺がいやだとは言えない人種なのを父さんは知っているけれど、あえてそれを口に出さないのが父さんだった。そしてそれに甘んじているのが、俺だった。

「すまないな光。お前は良い子だからきっと直ぐに友達も出来るだろ」

父さんはよく、俺の左耳に付いている赤いピアスを愛おしそうに撫でる。母の、唯一とも言える形見。俺はこのピアス越しに、母の面影を見るのだ。
 
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