夢見は最悪だった。新年度初日からこれだからきっと今年は良いことがない。更に悪いことに寝違えたのか、回らない首を気遣いながらワイシャツのボタンをかける。この動作一つだって、半年前のように何十分も掛けることはない。よくもこんなにピンピンしていられるもんだ。無意識のうちに出た欠伸は新学期特有の気だるさを助長させる気がした。まあそもそもいつだって俺は面倒だと言ってだらけているんだが、今日は特にやる気がしなかった。

それもこれも全部、昨晩見た夢の所為だ。嫌な記憶は忘れてしまえばいいと皆軽く言うけれど、そう簡単に忘れられたら苦労はしない。



「幸村、行くぞ」



今日もまた、俺の家の玄関先で待っていた真田に一瞬目を見張って、溜息をついた。

真田はまだ俺が病人だとでも思っているのか毎日毎日迎えに来た。休暇中の部活の日でさえも一日も欠かすことなく来たんだから、それはもう恐れ入る。



「……今年も赤也みたいな一年入ってくるかな」

「む、あんな奴がもう一人増えたら煩くて敵わん」

「もう十分煩いから一人くらい増えても大丈夫だよ。賑やかな方が楽しいだろ?」



ところで、と真田は俺の方を振り向いた。



「今日は随分と顔色が悪いが、何かあったのか」

「……別に、大したこと無いよ。夢見が悪かっただけ」

「そうか、だが今日は見学していろ」

「は?」



鋭く咎めるような声が自然と出る。俺は思わず顔を顰めたが、真田は気にしていない素振りで続けた。



「自分の容態も分かっていないのか。それで運動なんぞすれば倒れるのは必至だ」

「俺のことは俺が一番分かってる。大したこと無いって言ってるだろ」

「……そうやって意地を張っているから、ああいうことになるのだろう」



ああいうことって、なんだよ。

多分、さなだはそういうつもりで言ったんじゃないとは分かっていた。けれど、的確に俺の傷を抉ってくるから、俺も言わずにはいられなかった。



「な、んだよそれ、俺が病気になったのは俺のせいだって言いたいの」

「そうは言ってない」

「真田の言い方は、そう言ってるのと同じなんだよ! ……ッ真田なんてもう知らない、俺は部活出るからね」
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