来ないで!

叫ぶと心成しか背後の存在は足を緩めたような気がした。矜持なんてものはもうとっくのとうに捨て、既に逃げることだけに専念していた。異世界の身体に転生して早十五年、私はどうやらまたトリップしてしまったようだ。



朝起きたと思ったのだが夜だった。しかも森の中。目の前には顔のただれた人間(仮)が俺の顔を覗き込んでいた。

人間よりどちらかと云うと妖怪のようだった。そいつは俺が起きたのを知ると、周囲に知らしめるようにうおおおおとか意味の無い言葉を叫ぶ。するとどこに隠れていたのか似たり寄ったりの奴らがわんさかと湧いてきて、俺に襲い掛かろうとしたのでその場から逃げてしまった。明らかに奴らは鈍器のようなものを持って、俺を遣ろうとしている。

今だけは謙也くんの俊足が恨めしい。殺されるのは御免だと、奴らが歩みを遅めた隙に全力で走ると、今まで木々が茂っていたのが急に途切れて、眼下には街というより村に近いような、黄色を基調とした家々が広がっていた。
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